感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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「クルーズ船が日本を出港し、アジアを巡って日本に戻る帰路にあった。しかしながら、このクルーズ船を香港で下船した乗客から新型コロナウイルスが検出されていた」。映画だったらもうこれだけでその後の悪い展開が読めてしまいますが、現実の出来事でした。

そのクルーズ船は排水量11万3000トン、全長290メートル、甲板17層、最大客数約3100人で乗組員1045人です。1つの町が、長さ290メートルの中に収まっている、それこそ「3密」の極致だったのです。(ちなみに、私の憧れの「飛鳥2」は排水量約5万トン、全長241メートル、乗客定員872人、乗組員470人)

今回のような未知の感染症の場合、対応は現場の判断でしかないので、非難とかのつもりはまったくありません。とにかく3000人規模ですので、どこかの施設・ホテルや旅館で対応できる人数ではないですし、乗客も多国籍でした。船の上は日本国ではないので、ルールもありません。いまさらああすれば、こうすればと言うのは「事後諸葛亮」すぎますが、まあできたら乗組員を隔離すべきでしたかね。でも、乗組員がいなくなったら船は機能しないですし、やはり難しいです。

クルーズ船乗客の隔離は、予想外に長期化しました。結果3713人中712人が感染し、14人が亡くなられました。致死率約2%のWHO発表の通りでした。

私自身は現場には入らなかったですし、ことは企業、産業に関わることなのであまり直接的な話はできません。ただし、陽性者の発生状況から見ても、感染対応後・隔離後も陽性者が発生していたと推定されます。

ところで感染が明らかにならなかった残りの3000人は感染、もしくは接触を回避できたのでしょうか? どうもその後のこのウイルスの動態からすると、かなりの数の方はさらされてしまっていたと考えます。逆に、この新型ウイルスは接した人全員に症状を起こすわけではないと考察されました。さらに行われたPCR検査によるスクリーニングでは、感染者をすべて同定することはできないということも推定されました。