感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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「N95」マスクとは、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めたマスク規格で、約0.3マイクロメートルの粒子の吸入阻止率が95%以上であるものとされます。日本では同じような規格で「DS2」と呼ばれています。これは工場や作業場の粉じんを予防する規格で感染防止を意図としての規格ではありません。

「N95」マスクは医療現場では結核病棟などで使われています。以前のSARS(重症急性呼吸器症候群)事変やインフルエンザ対応で有効性が示されていますが、科学的に証明されたのは「単回使用したN95相当のマスク」だけです。ただし費用対効果的にはサージカルマスクで代用できるとのことです。

サージカルマスクは外科用マスクで、血液などの液体がマスク表面に付着したときに裏まで透過しないという特性でできています。個人的には、一般的環境で直接の飛沫(ひまつ)を避けるだけの用途なら、ただの紙でも布でもいいと考えます。もちろんマスクと顔の隙間とか、エアロゾル感染の制御とか、リスクは残りますが…。このあたりの感染の実験は倫理的に実証が難しいです。

医療現場においては特に飛沫が起きる処置には「N95」マスクは必須です。本当は単回使用ですが、物資不足により多くの現場は1日もしくは数日の再使用となりました。わずかですが、マスク再使用で感染が起きる可能性が上がります。感染対策としては、飢渇して患者を受け入れられないということはできないので、結果的には感染の可能性をなるべく低くする対応をとるほかないのが現状です。

一般市民的には、感染を防ぐためにはマスクはしてもしなくてもというのが、医療者としての感覚です。むしろ感染者がマスクをすることで飛沫を防ぐ効果を期待しています。「体調不良時にはマスクをして来院してください」というのが、お決まりのお願いです。

ただ今回のコロナウイルスでは、無症状の方が相当多いようです。どうもみなさんが感染を恐れて、ウイルスにかからないようにマスクをしたおかげで、無症状者からの拡散を防げていた可能性が高いです。一概に、「マスクは意味はない」とは言えないですね。ただマスクをして熱中症になるのは元も子もないので、暑いときは外してください。