感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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PCR検査は、遺伝子の特定部分を検出できるように、プライマーと呼ばれるDNA断片を設計して使用。DNAの材料と遺伝子を合成するポリメラーゼをピペッティングと呼ばれる作業で混ぜて、マイクロチューブと呼ばれる容器に入れます。それをサーマルサイクラー(DNA断片を複製させる機器)にセット。3段階の温度を設定して、20~30回反応させる工程です。非常に面倒な作業です。

私の学生時代の話なので比較できませんが、医学部の学生10人にやらせて、最初から成功できるのは2人くらいです。ただ頭のいい学生ほど作業過程を簡略化して対応しようとして、試薬の汚染や入れ忘れをして失敗します。愚直なまでの真面目さを持った忍耐強い人しかこの作業に向きません。

もちろん現在は、自動化システムや、PCR遺伝子産物を反応中に検出できるリアルタイムPCRがあるので、かつてのような苦労は軽減されています。しかも高額な自動化機器を、たとえ補助金等で購入しても、メンテナンスなどの維持費や試薬・キットも高額で、結局病院財政を圧迫します。新型コロナウイルス以外のPCR検査自体がほぼ保険収載されておらず、経費削減の医療の流れですと、維持費も試薬も安い旧型機器で対応するのが、医療経済的には正解です。低予算で運営している病院検査部としては、1つの検査機器を大事に扱っています。

PCR検査は、機種にもよりますが、機械の反応チェックや検体の混入否定のための検査も同じ分試薬を使うため、1~2検体ずつ行うよりは、できれば十数件まとめたほうが効率も経費的にもいいのです。でも、現場からは「結果を早く出せ」と催促(切望)があり、座席が埋まらず空席のまま発車する列車みたいな対応がなされています。

また、どうやら陰性の結果を出すために、2回検査してくれていたようです。非常に真摯(しんし)な対応です。検査現場は疲弊していると思います。

数検体まとめて行う方法が海外で取られますが、陽性率が低い時の対応です。これは使いどころの判断が必要です。