感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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SARS(重症急性呼吸器症候群)及びMERS(中東呼吸器症候群)のときにも、ワクチンは検討研究されました。しかし、いずれも実用化されませんでした。感染阻止力に疑問があり、なおかつその試験もできなかったからです。

豚や牛のコロナウイルスに対するワクチンは、ある程度の成功を収めているようです。しかし、猫コロナウイルスのワクチンはあまりうまくいっておらず、ワクチンで免疫をつけると、かえってウイルス感染が促進されたとのことです。いずれにせよ動物コロナウイルス感染阻止に必要な抗体力価は非常に高く、コロナウイルス対策の難しさがここでも現れています。

さて、現在新型コロナウイルスの抗体価を上げるために、各国各企業がしのぎを削っています。現状で一番有力なのは、コロナウイルスの表面タンパクを作るDNAをベクターというカプセルで細胞内に運ぶ方式です。さらに抗体価を上げるために、アジュバントという免疫活性物質も添加されているみたいです。時々「抗体価が上がった」などとニュースにもなっていると思います。

ただ私的にはワクチンにはやや懐疑的です。なぜならば、感染阻止に本当に有効な抗体がわからないのです。また多くは表面タンパクの「S1」に対する抗体です。「S1」はコロナの周りの丸いクラウンのところです。そこに抗体をつけるとポロッと取れて、中から「S2」というとがったタンパク質が出てきて、かえって細胞に侵入しやすくなり、これが重症化の機序(メカニズム)との説もあります。

そもそもウイルスは自分の遺伝子を増やすのが、存在目的です。ウイルスのDNAやRNAを人間の細胞に送り込むのは、何だかウイルスの味方をしている印象があります。

そしてみなさんが想像するような、1回で感染阻止できるようなワクチンは、残念ながら開発されないでしょう。牛のワクチンもそうですが、すぐに効果が切れてしまうそうです。そこが、コロナのいやらしいところなのです。

いずれにせよ、安全なワクチンの開発には、巨額な費用と、多数の被験者と、正確な臨床試験の時間が必要なのです。