感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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結局、今回の新型コロナ治療に関しては「支持療法」が重要だと感じています。「全身管理」とも表現され一見地味な治療の印象ですが、強調して繰り返すと、最も大事な治療です。

「木を見て森を見ず」とは表現したくないのですが、現在の医療の流れとして専門分化されていますので、どうしても臓器別治療のエキスパートばかりになってしまっています。今回の新型コロナ対応で最も試されているのは、その病院の臓器横断的対応能力=全身管理能力ではないかとも感じています。

ECMO(体外式模型人工肺)が脚光を浴びています。血管カテーテルで血液を取り出して、膜型人工肺で酸素化して別のカテーテルで血管に戻す技術です。呼吸不全に陥った患者を支えます。体外を血液が循環するシステムですので、常に閉塞(へいそく)や凝固のコントロールが必要です。数時間の透析ですら常にアラームが鳴る状況ですので、それが24時間続くと管理は重労働となります。特に「ME」と呼ばれる臨床工学技士と、担当する看護師は大変です。

ただECMOを使えば治るというのは勘違いです。それはウイルスを消しているわけではなく、患者を支えているのです。また、1人の患者に必要な医療スタッフが必要になります。欧米では相当高額な医療費が請求されます。日本の医療システムでは病院の負担が大きくなり経営を圧迫します。

「サイトカインストーム」(ウイルスを排除するための免疫組織が暴走する現象)などで放出される炎症物質でも引き起こされますが、安静を強いられると血栓塞栓(そくせん)症を併発します。なかでも肺塞栓を併発すると致死率が上昇します。欧米では多数の患者さんが肺血栓塞栓症を併発していたとのことです。日本は凝固系のコントロールが非常に効率的に行えていて、それが死亡率の低下の一因といわれています。

繰り返しになりますが、全身管理能力が病院の優劣を決めると思います。しかし現在の医療報酬システムは「安く治療してください」という流れで、この技術を評価しません。今後の医療政策が、やはり懸念されます。