感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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治療法も確立せず、世界各国が対応しても拡大の一途を続ける未曽有の感染症というと、もはや人類の滅亡の危機だと思われますが、この新型コロナで問題となっているのは、なぜか「PCRの検査数」「飲食店や旅行業界の経営難」「医療崩壊」などです。

PCRの検査は確かに最も感度が高い検査ですが、それはあくまで病原体の証明であって、治癒証明にもなりません。多くは翌日以降の結果です。PCRを拡充しても、拡散には追いつかないのです。あくまで診断用の検査で、安心のための検査にはなりません。

業種的な問題としては、どこも困っていると思います。私にとっては、喫茶店の自粛営業に困りました。そしてこの自粛の効果はわかりません。効果があるならば、なぜ毎年のインフルエンザで行わないのか? という疑問もあります。

医療崩壊は確かに、海外で見られました。日本でも今後地域によっては起こるかもしれません。ただ東京都内においては、コロナ以前に高齢化と保健制度の問題で、既に起きている状況です。医療界ではここ数年、収益を上げる対策ばかりが取りざたされていましたが、このコロナ禍でその多くがうまく回らなくなりました。このことが今後どのように国民福祉に影響するか、は注目です。やはり今後は必要な分野を選定して医療資源を配分していくほかないと考えます。

医療者はコロナウイルスの何を恐れているかというと、自分がかかることよりも、院内感染として病院やその部門への影響や社会的制裁を恐れています。これは「正しい恐れ方」ではないと思います。それに本当に恐怖のウイルスが来たら、医療者といえども人間ですから、逃げると思います。もちろん今回は世界中どこにも逃げ場はないのですが…。

子どもたちの重症化が少ないのは、季節性コロナに常にさらされているから、と考えられています。満員の通勤電車の方々も、恐らく季節性コロナにさらされています。だからといって安心はできませんが、もう少しおおらかにコロナに注意して、生活していきたいと思います。(おわり)