■バイオフィルムの特性

歯ぐきが急激に腫れるなど、歯周病特有の症状が急性化していらっしゃる患者さんから寄せられる中に「うがい薬を使うと調子が良くなるので購入したいです」や「菌をやっつける抗生物質を処方してください」という要望があります。

きちんと原因を把握して根本解決しないと治らない病気ですよとお伝えしても、忙しいことを理由にそれっきりになる方も少なくありません。

長いこと臨床に携わっていると、「寝ている間に歯が抜け落ちていた」と慌てて駆け込んでくるといったエピソードも1度や2度ではないというのが現実です。歯周病の主な原因はバイオフィルム(歯垢=しこう)というヌメリ汚れなのですが、この正体はたくさんの細菌の塊からなる集合体です。互いに連携しエネルギーのやりとりをするほか、バイオフィルム内で効率よく増殖できるようなコントロールをしているため、放っておくとどんどん成熟し病原性が高まっていきます。

細菌が生み出す物質で外界から身を守る壁を有し、どんなに強力な殺菌成分を投入してもはね返され、中にいる歯周病菌には直接作用できない要塞(ようさい)のような仕組みです。毎日行うブラッシングの精度を上げることで、バイオフィルムごと破壊しなければ歯周病菌を退治できない理由はここにあります。

症状がごく軽い段階ではある程度食い止めることができるのですが、病態が進行すると歯周病菌が起こす炎症によって周りの組織が破壊され、歯の根元の部分にまで塊が増えていきます。支える骨が溶かされ揺れていれば、さらに深部へ侵入しやすくなります。私はライオンのホームページに登場する歯周ポケットマンというキャラクターが好きなのですが、ぶかぶかした歯ぐきの内側に汚れがびっしり付いているさまが患者さんにも視覚的によく理解できるようです。