今日の日本は“2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる”のが現状です。そのがんが骨に転移すると日々辛い痛みに苦しめられ、痛みを緩和させる「モルヒネ(医療用麻薬)」を使うような状態に-。この痛みを「がん性疼痛(とうつう)」と言います。定位放射線治療の「ガンマナイフ」は、その痛みを消してしまう治療もできるのです。

ガンマナイフで脳のどこに照射するのか、と言いますと、ホルモンの中枢の「下垂体」に照射します。下垂体にできる「下垂体腺腫」の場合は、下垂体を避けて腺腫にだけ照射。がん性疼痛では正常の下垂体に大量の180グレイ(転移性脳腫瘍治療の4倍ほど)を照射します。それにより下垂体の機能を少し変えると、がんの痛みは90%消すことができます。

これは、世界の代表的医学誌に2002年に掲載されたからです。それで“がん性疼痛”も“脳卒中後の厳しい痛み”も下垂体照射の有効なことが知られることになりました。

ただ、下垂体はホルモンの中枢なので、下垂体に照射することでホルモンがダメになると思われるでしょう。下垂体は、放射線の照射量が多くてもこの程度であれば機能がなくなることはありません。実際には、機能に一部分問題がでるという人は30%、残りの70%の患者さんはまったく問題ありません。ホルモンにはいろいろありますが、患者さんは大方成人なので、成長ホルモンは必要ありません。甲状腺刺激ホルモンと副腎皮質刺激ホルモンの2つを内服薬で補えば、生活に支障はありません。

がん性疼痛にも有効なガンマナイフですが、現時点では保険適用ではありません。一方で、がん性疼痛対処療法も現在は進んでいます。だから、実際にガンマナイフを選択されるのは、モルヒネでコントロール困難な難治性のがん性疼痛の患者さんのみで、適用となる患者さんは少ないのが現状。しかし、ガンマナイフが身体の中の性状を変えてしまうという点では、非常に興味深いです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)