定位放射線治療の「ガンマナイフ」は、がんが骨に転移して起こる痛み「がん性疼痛(とうつう)」の治療も行っていることを前回紹介しました。これからのガンマナイフの適用は、脳神経外科と関係のない疾患にも応用されるのでは、と私は希望を持っています。

たとえば、男性の罹患(りかん)者数第1位の前立腺がん。その前立腺がんのステージ4のがん性疼痛に、今行っているガンマナイフの照射量ではなく、もっと照射量をアップするのです。これは脳内のホルモンの中枢である「下垂体」に照射しています。照射量をアップすると下垂体は壊れます。これでホルモン性がんの前立腺がん、乳がんのがん性疼痛は治すことができます。実際、前立腺がんのステージ4の患者さんは、痛みがとれた後にPSA値は改善していました。ホルモン性がんに、ガンマナイフでの下垂体の消失治療は可能性があります。

そして、最も期待されているのは「糖尿病の合併症」。特に「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」の3大合併症は、脚を切断したり、失明したり、人工透析になったりします。その進行を止める治療がガンマナイフでできる、と考えられています。実は1970年代、フランス人の脳外科医により手術で下垂体を壊すことで進行が予防できた、という論文報告を見つけました。

その治療は、がん性疼痛と同じように脳の下垂体にガンマナイフで照射し、完全に壊しきるのです。下垂体からは成長ホルモンなどのほかに「IGF-1」という増殖因子も産生されています。これは合併症を悪くする因子の1つ。下垂体を壊すことで、合併症の進行は抑えられ、網膜症になっても失明しないことが期待できるのです。

私がここまで行ってきたガンマナイフ治療。そして、今、日本に導入され始めた高精度・高出力照射の「ZAP-X(ザップエックス)」、及び「重粒子線メス開発」などで夢の実現はさらに近づくことでしょう。これからの定位放射線治療が糖尿病二次性合併症予防として治療適用となることを、心より願っています。(おわり)(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)