認知症は15~20年という長い時間をかけて発症する。ひとたび発症すると脳の変異は回復しないが、認知症になる前ならば改善は可能だ。

よく知っているはずの歌手や俳優の名前がなかなか思い出せない。「ほら、あれ、あれ…」を乱発。ぼくはこれを「あれあれ症候群」と命名した。生活に支障はないけれど、もの忘れが増えたと自分で気づいている状態のこと。医学的には主観的認知機能低下(SCD)という。

認知症の一歩手前

SCDではど忘れが多くなったり、外出が億劫になる、連続ドラマを見るのが面倒になった、同じことを何度も聞くことが多くなった、などの症状が見られる。

以前、地方へ講演に行く電車の中で、前の席に座った老夫婦の会話が聞こえてきた。「母さん、あれどうなったかな。あれが心配なんだけど」妻が答える。「あれは私がなんとかしたから大丈夫。あれのことは心配しないで」。聞いていて吹き出しそうになった。1度も固有名詞が出てこない。このご夫婦は認知症ではないと思う。2人で協力し合って問題解決をしている。でも間違いなくあれあれ症候群が始まっていると思った。

MCIの半分は正常に戻れる

この段階が進むと、周りにもわかるくらいのもの忘れが目立ってくる。これが最近よく知られるようになった軽度認知障害(MCI)。同年代に比べて認知機能が低下している状態だ。認知症の一歩手前。MCIになると、年間1割程度が認知症に移行すると言われているが、しっかり対処することで正常な状態に回復する例も少なくない。