福島・相馬市沖で「常磐もの」代表格のヒラメを釣って、おいしい料理をつくるワークショップがオンラインで実施された。講師となったイタリアンシェフの奥田政行さん(50)も大判を釣り上げ、インターネット生配信で離れた場所の全国20人と楽しく料理をした。近隣の南相馬市、浪江町の食材もふんだんに使って、福島浜通りの復興の大きな希望となった。また、新地町の投げ釣り施設も濃い魚影で盛り上がっている。
事前に福島の食材をふんだんにお届け
- 素材を生かして簡単に調理する。これぞ奥田シェフのマジックだ
オンライン料理企画で参加者からはこんな声があがった。
「えっ、相馬市から新鮮なヒラメや野菜が送られてきたんだけど、これを私が料理できるの?」
当初は復活した福島の現状を実際に体験してもらうため、参加者には現地相馬市まで足を運んでもらう企画内容だった。だが、新型コロナウイルスが全国に広がる勢いも止まらず、先着20人を対象としたオンラインでの料理ワークショップに変更になった。だから、参加者には事前に福島のおいしい食材が届けられていたのだ。
相馬沖で釣れた新鮮なヒラメ。釣り上げても50cm未満は再び海に戻すローカルルールがあるため「ヒラメ、ってこんなに厚みのある魚なんだ」「切り身しか使ったことがないから不安」「こんなに食材が入っていていいの」という感想がもれてきたぐらいだ。
さらに東日本大震災の津波や福島第1原発事故から立ち直るために南相馬市の農地再生事業で誕生した菜の花畑から商品化された「なたねオイルの油菜(ゆな)ちゃん」。同じく南相馬市「カヤノキファーム」からはプチぷよトマト、カラーピーマン、島オクラ。そして料理にぴったりの純米吟醸酒「磐城 寿」(写真)は山形・長井市で再生し、まもなく故郷に戻ってくる浪江町「鈴木酒造」の逸品だ。福島の元気の詰まった小包だった。
- 相馬市で調理する奥田シェフとオンラインで全国の参加者とつながった
- ヒラメのしっぽ? カヤノキファームのカラフルなピーマンと一緒に炒められた。もちろん、おいしく仕上がりました
- 浪江町で津波被害にあった鈴木酒造の純米吟醸酒「磐城 寿」
ヒラメ初釣戦!奥田シェフ「肉質いい」
- 常磐もののヒラメを釣り上げた奥田シェフは「これは身が厚い。絶対おいしいね」と笑みがはじけた
イタリアンの巨匠と呼ばれる奥田さんは「この企画を待っていたんだ」とニッコリ笑った。実家は新潟との県境にあった大型ドライブインだった。父親からは「道に迷って困っている人がいたら助けるんだ」との教えを受けて育った。50歳の今もその姿勢に変わりはない。今回のイベント依頼には「ぜひ、やりたい」と即答だった。
船に乗って初めてヒラメ釣りもした。魚体に触れると「スゴい。身が凝縮されていて多分味が濃いよね」と目を輝かせてつぶやいた。相馬港からほど近い会場に移動して包丁でさばいて思わずうなった。「ヒラメの肉質がとってもいい。水っぽいと勘違いしていた。食材としては日本一のヒラメですね」と白く輝く切り身に軽く指を滑らせた。
- ◆奥田政行(おくだ・まさゆき)1969年(昭44)12月4日、山形県鶴岡市生まれ。有名ドライブインの次男で、4歳から自然と料理をするようになった。海や山で遊ぶ野生児で野菜や魚介類の味を見分けることが得意だった。高卒後、東京で料理人修業をして94年に山形に戻り、ホテルや農家レストランの料理長を経て、2000年地産地消にこだわったイタリア料理店「アル・ケッチァーノ」開業。世界各国の料理コンテストで実力を発揮し、日本を代表するイタリア料理人として活躍している。現在、「ヤマガタサンダンデロ」「織音(おりおん)寿し」など直営3店、運営2店、プロデュース8店が稼働。
横山復興副大臣も調理
- 横山副大臣も一緒にヒラメを調理した
実釣で10匹を釣り上げた復興庁の横山信一副大臣と並んで調理しながら、参加者には「オリーブはしょうゆ、トマトはグルタミン酸だから昆布、コンソメはめんつゆの代用品」「尻尾は捨てない。いいダシ、とれるからね」「ピーマンは種も使おう」「このお酒はヒラメにぴったりだ」としゃべりまくった。
参加者からは「初めての五枚おろしがきれいにできて感動」「つくっている途中の香りが最高」「リモートで料理がつくれるんですね」とはずんだ声であふれた。福島は寒流と暖流のぶつかる海域で、そこで育った海産物を「常磐もの」と呼び、ヒラメは代表格だ。来年は震災からちょうど10年―全国から誘客する準備は着々と整ってきた。
東日本大震災後出荷制限…今年2月にすべて解除
▶福島県のヒラメ 2011年3月11日、東日本大震災が起き、津波などで被害を受けた福島第1原発で事故が発生し、県沿岸の漁業は全面自粛に入り操業が停止された。操業日数や海域を限定して出荷先の評価を探る試験操業は12年6月、ミズダコなど3魚種で始まった。ヒラメは16年6月に出荷制限が解除となった。最大44魚種が対象となった出荷制限は20年2月、全てが解除。15年4月以降、県水産海洋研究センター調査では放射性セシウム濃度が国の基準値(1kg当たり100ベクレル)を超えた検体はない。福島県漁連は今年9月29日、本格操業再開を来年21年4月から目指すと発表した。
堤防釣り施設はNO密&魚影は濃密「ふところ深い」
- つり人社の山根社長がエギで元気なマダコを釣り上げた
- ソフトルアーにカンパチがヒットした
やや残念だったのは、新地町海釣り公園を訪れた9月5日は台風10号の影響で天候不順だった。昨年から再開した堤防釣り施設で、41の区画が決まっていて、利用者はその場所以外では釣りができないルールになっている。つまり「どこでも魚が釣れる」という自信の証しでもある。釣る場所を決めたら動かないから、来場者間の一定距離が確保され、自然とコロナ対策にもつながっている。サオを出した木村さんは「ちょっと海面からは高い釣り場だけど、魚影は濃そう。福島の海はふところが深い」と話した。問い合わせ☎0244・62・5559。受付時間は午前9時から午後4時。
- ヒラメだけではなくハネの美しいホウボウも釣れた。相馬沖、魚の宝庫だ
★企画名称
『常磐もの』で福島の今を体感2020~釣れたヒラメでリモートクッキング!~
★主催
復興庁
★実施運営
電通、つり人社、日刊スポーツ新聞社ほか
★実施日時
▶投げ釣り・9月5日午前6時~新地町海釣り公園
▶6日午前5時~相馬港から沖で船釣り・第二豊漁丸、甲子丸
▶6日午前11時~相馬市東部公民館でオンライン料理ワークショップ「ヒラメ・日本酒をご自宅にお届け!福島県の海の幸を使った奥田シェフのオンラインワークショップ」キッチハイク
★食材協力
カヤノキファーム(南相馬市)、なたねオイルの油菜(ゆな)ちゃん(南相馬市)、鈴木酒造「磐城 寿」(浪江町)
★協力
新地町観光協会、相馬市産業部商工観光課
★出演者★
◆ヒラメ釣り&料理企画奥田政行(山形・鶴岡市「アル・ケッチァーノ」代表)
◆ヒラメ釣り秋丸美帆(通称・みっぴ)、高橋万里恵(TOKYO FM「HandinHand」)
◆投げ釣り&ヒラメ釣り木村尚(海洋環境専門家、NPO法人海辺つくり研究会理事長)敬称略