ロブ・マンフレッド・コミッショナーを取材する機会があり、初めて間近でコミッショナーの話を聞いた。ニューヨーク州生まれのコミッショナーは、子どもの頃からヤンキースファンだったそうだが野球のプレー経験はないようで、ハーバード大学のロースクールを卒業後は法務の道を歩み、スポーツとは無縁の世界にいた。それが労使交渉等で大リーグ機構とかかわるようになり、そのうち機構に入って労使や禁止薬物規定の交渉に携わり、コミッショナーに就任するまではCOO(最高執行責任者)を務めた。この経歴から、人というイメージを持っていた。

 ところが間近で話を聞くと、イメージは変わった。マーリンズの本拠地マーリンズパークで来年7月に開催されるオールスター戦のロゴマークお披露目セレモニーの際に取材をする機会があったのだが、セレモニー後に球場内の報道関係者が使う部屋で会見をするというので待っていると、コミッショナーはにこやかな表情で愛想良く部屋に入ってきた。前任者のバド・セリグ氏は身長190センチはありそうな大柄な方だったが、マンフレッド・コミッショナーは想像していたよりも小柄で、親しみやすい雰囲気を持っている。

 ちょうどイチローがメジャー通算3000安打に近づいているときで報道陣の数が多く、4畳くらいの部屋がぎゅうぎゅう詰めで、顔を突き合わせるような至近距離で報道陣に囲まれるという異様な状況だったが、嫌な顔1つ見せなかった。報道陣からは矢継ぎ早に質問が飛び、しかも内容は今後の時短対策から20年東京五輪、キューバとの今後の関係、イチローの記録に至るまであらゆるトピックを網羅していたが、コミッショナーはまるで立て板に水のごとく鮮やかな弁舌ですべてに答えていった。話す言葉も非常に聞きやすい。米国人の話し言葉は主語が省略されていたり、文法がでたらめだったりすることがほとんどだが、コミッショナーの場合は教科書に出てくるようなきちんとした文法で話すので、聞き取るのが非常にラクなのだ。米国のエリートとはまさにこういうタイプだという見本のような人だと思う。

 実際の仕事ぶりはというと就任以来、時短など数々の改革を進め、今後は投手交代の制限や試合数削減など難しい目標を掲げている。改革が過激だという批判的な声も上がる中、メジャーという最高峰のリーグをより良い方向に導けるのか。今季終了後に現在の労使協定が契約切れとなり、新たな労使協定を結ぶことになるが、そのときコミッショナーの真価が問われるだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)