カブス今永昇太投手(30)が長いメジャーの歴史の中で最高の投球を続けている。英語でよくある言い回しの「最高クラスの中の1人」ではなく、文字通り「最高」だ。MLBデビューから最初の9先発(オープナー除く)で防御率が0・84というのは、1981年のフェルナンド・バレンズエラ(ドジャース)を抜いて、歴代1位となった。

バレンズエラといえば「フェルナンド・マニア」という熱狂的ファンを生み出した、ドジャースの伝説的投手だ。メキシコ出身で、英語がほとんどしゃべれなかった。外国出身投手、左腕といった点は、今永と共通している。

81年は13勝7敗、防御率2・48で新人王とサイ・ヤング賞を史上初めて同時受賞した。最多奪三振でリーグ最多の11完投、8完封という数字は、時代の違いを感じさせる。実はこの年、6月12日から8月9日まで大リーグはストライキがあって、ドジャースは110試合しか行っていない。通常通りなら13勝どころか20勝はして、2桁完封していただろう。ストライキとともに現れたスター投手といえば、後にドジャースで「ノモマニア」を生んだ野茂英雄も同様だ。

閑話休題。今永が、なぜここまで抑えられるのかを考察しよう。米国で真っ先に挙げられるのが、直球(4シーム)の質だ。直球のランバリュー(いかに相手の得点を減らしているか)13は、同僚のハビエル・アサドのシンカー、タイラー・グラスノー(ドジャース)の直球などを抑えて、メジャー1位だ。つまり、大リーグで最高の価値を持っている。被打率はわずか1割6分4厘だ。

今永の直球は平均92・0マイル(約148キロ)だ。リーグ平均は94マイル(約151キロ)なので、3キロも遅い。リーグの下位18%に入る。前述のグラスノーは平均96・3マイル(約155キロ)だ。

平均より遅いだけでは、抑えられる理由にならない。当たり前だが、遅い直球は速い直球より打たれやすい。ではなぜ、今永の直球は打たれないのか。理由はいくつかある。

1つは「球の伸び」だ。今永の直球は浮き上がる、ように見える。1分あたりの平均回転数は2439。これは上位11%に相当するが、リーグ55位だ。平均よりははるかにいいが、トップではない。それでも、スピンの効率が素晴らしく(99%)、平均より2・9インチ(約7・4センチ)も上方向に浮き上がる(実際には平均的な球より落ちが少ない)。つまり、回転の角度がいい。これを高めに投げ込んでいる。直球に限ると、ボールゾーンを合わせて約57%を高めに投げている。

高めは、日本よりメジャーの方が明らかにストライクゾーンが広い。メジャーはフライボール革命の影響でアッパースイングの打者が多く、日本より効果的だ。また、今永は178センチと身長がメジャーの平均より小さく、メジャーの打者からは見慣れない角度から投球していることも「浮き上がるように見える」という点では大きい。

さらに、スプリット(ただし、今永自身はチェンジアップと呼んでいる)との相乗効果もある。MLBにはスプリットを投げる左腕投手が、あまりいない。MLBのアドラー記者によると、先発投手に限ると、100球以上スプリットを投げた左腕は、2017年マリナーズのアリエル・ミランダ(ソフトバンクで18年に6勝1敗、19年に7勝5敗だった投手)以来だという。記録が残る2008年以降でも、通算303勝のランディ・ジョンソンら6人しかいない。

今永は希少性を生かした投球で、歴史的な投球を続けている。日本と違い、メジャーは1年間で29球団と対戦する。同じチームとの対戦が少ないことも、今後に向けては好材料となる。【斎藤直樹】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)