直メジャーが当たり前の時代が来るのだろうか。投打二刀流の桐朋高(東京)・森井翔太郎遊撃手兼投手(18)が、米大リーグのアスレチックスとマイナー契約を結んだ。契約金は151万500ドルで、日本円にして約2億3400万円(1ドル155円で換算)だった。投手として最速153キロをマークし、打者では高校通算45本塁打を記録した逸材にふさわしい契約となった

日本のドラフト1位は、最高額で入団し、出来高を全部フルでクリアしても、契約金が1億5000万円に年俸1600万円で、合計1億6600万円にしかならない。この時点で、6800万円差がついている。円安とはいえ、これでは、日本のドラフト1位候補が、直接メジャーリーグの球団に入りたいと考えてもおかしくない。

今回の契約で私が個人的に注目したのは、契約金のほかに、主に引退後に使用する学業補助金として25万ドル(約3900万円)が付いたことだ。親目線で考えれば、高卒で米国へ行かせることは、かなり心配だろう。

これまでも高卒で直接メジャーを目指した選手は、97年の後松重栄投手(大曲工からメッツ)や奥田ペドロ内野手(本庄第一からマリナーズ)らがいるが、成功したといえる選手はいない。02年に山口鉄也投手は、横浜商からダイヤモンドバックスに入団したが、1Aにも昇格できずに日本に帰国した。その後、巨人に入団してから成功した。

ひるがえって森井のケースだが、学業補助金があれば、たとえマイナーリーグ止まりとなったとしても、その後、卒業まで高額がかかるケースの多い、米国の大学に通うことができる。桐朋は、偏差値70ともいわれる都内屈指の進学校。大学進学の道を捨てずにマイナー挑戦できるのならば、何の不安もなく米国に飛び立つことができる。

花巻東高(岩手)から米スタンフォード大に進んだ佐々木麟太郎内野手は、昨年の日本のドラフトでも上位指名候補だった。だが、プロ志望届を出さずに、世界屈指の名門大を選んだ。しかも、学費や寮費の全額が奨学金で賄われる「フルスカラシップ」だ。既に米国では打撃が評判となっており、26年のドラフト1巡目候補とも目されている。

今や学歴としても、日本のほとんどの大学よりも、米国の大学の方が学位は価値を持つケースは多い。東大や早大、慶大に目もくれず、スタンフォード大やハーバード大などに進む日本の優秀な高校生も少なくない。バブル崩壊後「失われた30年」で、閉塞(へいそく)感の漂う日本を飛び出す気持ちは、理解できる。

メジャーリーグと日本のプロ野球は、年俸格差が開いた。日本の選手会の調査では、24年の支配下選手の平均年俸は4713万円だった。メジャーリーグの平均年俸は498万ドル(約7億7200万円)。16倍もの差がついている。最低年俸でさえ74万ドル(約1億1400万円)と、日本の平均年俸を上回っている。

DeNAの南場智子オーナーは昨年「海を渡ると年俸が桁違いになる。正直悔しい部分もある」と話した。DeNAで推定年俸1億4000万円だった今永昇太投手は、カブスに4年5300万ドル(約82億2000万円)で移籍した。「日本のプロ野球が産業として規模の発展に真剣に取り組む必要がある。もっと選手に報いたり練習環境を良くしたり。日米のギャップを小さくするのが重要」と話していたが、全球団が本気で取り組むべき課題だろう。

MLBは今年、開幕戦を日本で行う。しかも大谷翔平、山本由伸がいるドジャース-今永、鈴木誠也がいるカブスという最高のカード。米国まで見に行かなくても、魅力を日本のファンにアピールできる。森井、佐々木といったトップ高校生が、学歴としても不安なく渡米を選んだ事実。今回の契約は、日米の野球界において、歴史的な転換点になっている気がする。【斎藤直樹】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)

桐朋・森井翔太郎
桐朋・森井翔太郎