2025年、マリナーズなどで多くの歴史的偉業を成し遂げたイチロー氏(51)が、アジア人初の米野球殿堂入りを果たした。この快挙に合わせて、今夏、野球の聖地といわれるニューヨーク州クーパーズタウンの殿堂博物館に、「ヤキュウ・ベースボール展」がオープンした。野球を通じた日米交流の歴史や日本野球の発展、日本人メジャーの足跡をあますところなく伝えてくれる。日本の野球ファンにとって魅力的な展示になっているだけでなく、米国人にも大ウケしている注目のスポットを訪れた。【取材・構成=水次祥子】

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「世界の王」王貞治さんの写真や日本語での案内文で彩られた入り口(1)を入ると、まず目の前にどーんと現れたのは、等身大の豪華絢爛(けんらん)な鎧兜(2)だった。10~14世紀に武将クラスの侍が着用した鎧兜(よろいかぶと)のレプリカ。1988年にドジャースのピーター・オマリー・オーナーが巨人の正力亨オーナーから友好の証しとして贈られたものをオマリー家から借り、展示にこぎつけた貴重な品だという。

ここでは、日本人でも知らなかった、あるいは記憶からほぼ消えていた、日米交流の歴史の遺物と出会うことができる。

(1)日米の野球交流をたどる「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー入り口
(1)日米の野球交流をたどる「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー入り口
(2)1988年に巨人の正力亨オーナーがドジャースのピーター・オマリー・オーナーに友好関係を記念して贈呈した武将の鎧兜レプリカ
(2)1988年に巨人の正力亨オーナーがドジャースのピーター・オマリー・オーナーに友好関係を記念して贈呈した武将の鎧兜レプリカ

34年にベーブ・ルースらメジャーのスター選手がアンバサダーとして来日し、野球を通して日米の架け橋となった交流黎明(れいめい)期から、日本に上陸したベースボールがいかに国民の娯楽として浸透したか(3、4)。そこからどのようにして独自文化として発展したか(5)。そして日本人メジャーリーガーや侍ジャパンの輝かしい栄光など(6、7)が、展示物や解説文などで丁寧に紹介されている。

(3)日米野球交流の黎明(れいめい)期を紹介する展示
(3)日米野球交流の黎明(れいめい)期を紹介する展示
(4)米国の日系人野球の歴史を紹介するコーナー
(4)米国の日系人野球の歴史を紹介するコーナー
(5)野球を通じた日米の野球の交流の黎明(れいめい)期、ベーブ・ルースら偉大な選手が来日した当時などを紹介する展示
(5)野球を通じた日米の野球の交流の黎明(れいめい)期、ベーブ・ルースら偉大な選手が来日した当時などを紹介する展示
(6)日本人として初めてメジャーでプレーした村上雅則さん、米独立でもプレーした吉田えりさんら日本人選手の国際的活躍を紹介したコーナー
(6)日本人として初めてメジャーでプレーした村上雅則さん、米独立でもプレーした吉田えりさんら日本人選手の国際的活躍を紹介したコーナー
(7)ドジャース佐々木朗希のロッテ時代の完全試合達成時のボールや、2025年に米大学野球デビューした佐々木麟太郎のバットなど新時代を担う日本選手の記念の品が展示されたコーナー
(7)ドジャース佐々木朗希のロッテ時代の完全試合達成時のボールや、2025年に米大学野球デビューした佐々木麟太郎のバットなど新時代を担う日本選手の記念の品が展示されたコーナー


日本人メジャーのパイオニアは、感慨深そうに展示物を見つめていた。64年にジャイアンツで日本人初のメジャーリーガーとしてデビューし、殿堂博物館に多数の記念品を寄贈している村上雅則さん(81)は、こう感嘆した。

「私がこの博物館に来たのは95年にフィリーズのマイク・シュミットが殿堂入りしたとき以来ですが、そのときは日本のものがほとんどなかった。今回行ったら、日本のものがいろいろ飾ってあって、メジャー関連だけでなく、日本で活躍した王さんや、日本プロ野球の選手のものもたくさんあった。すごく日本の野球に気を使ってくれているなと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。うれしかったです」

1年で最も来場者が殺到する殿堂入り式典のイベント開催期間中、このギャラリーを訪れた。ちょうどイチロー氏の殿堂入りセレモニーもあり、日米の野球ファンで大盛況だった。驚いたのは、米国人ファンも日本野球の展示を熱心に見入っていたこと。入り口にある鎧兜を見て「サムライ!」と歓喜の声を上げていた。甲子園球場の選手弁当も紹介されていた(8)。日本の古い野球のテレビゲームが展示されているコーナーでは、画面に日本語しか表示されていないにもかかわらず、ゲームに一生懸命に興じている米国人ファンの姿もあった(9)。

(8)日本の野球文化を紹介するコーナーにある球場グルメを紹介する展示。写真は甲子園球場の阪神選手にちなんだお弁当
(8)日本の野球文化を紹介するコーナーにある球場グルメを紹介する展示。写真は甲子園球場の阪神選手にちなんだお弁当
(9)日本の野球に関するポップカルチャーを紹介するコーナーで日本のテレビゲームに挑戦する米国の来館者
(9)日本の野球に関するポップカルチャーを紹介するコーナーで日本のテレビゲームに挑戦する米国の来館者

ギャラリー内のミニシアターでは、日米の野球応援文化を比較するフィルムが上映されていた。(10)神宮球場名物の東京音頭に合わせて傘をさすヤクルトの応援や、阪神ファンの熱狂的な応援などが紹介されているのを、米国人が興味津々で見ているのが印象的だった。

(10)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内のミニシアターの前で笑顔を見せるスタッフのイザベラさん
(10)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内のミニシアターの前で笑顔を見せるスタッフのイザベラさん

米国の野球ファンにとって日本といえば、23年WBC決勝の印象が強いだろう。ドジャース大谷(当時エンゼルス)とトラウトの対決が、感動の名勝負として強く心に刻まれている(11)。あのWBCで優勝した日本が、いかに野球を発展させ、ここまで強くなったのか-。その答えに触れようと、展示を熱心に見て回る米国人ファンの姿が、そこにはあった。

(11)侍ジャパンと米国代表が決勝で戦った2023年WBCのときの記念の帽子など
(11)侍ジャパンと米国代表が決勝で戦った2023年WBCのときの記念の帽子など

野茂英雄(12)が96年9月にクアーズフィールドでノーヒットノーランを達成したときのボールや、松井秀喜(13)が04年3月のレイズとの日本開幕シリーズで着用したヤンキースのユニホーム、イチロー(14)が10年に10年連続200安打を達成した際のマリナーズのユニホーム、大谷翔平(15)がドジャース1年目の24年、ホームデビュー戦で着用したユニホームなど、侍メジャーリーガーたちの逸品にも目を奪われる。クーパーズタウンは、MLBの歴史や素晴らしさ、すごさを実感できるだけではない。米国の“ベースボール”の中で、日本野球がしっかりとした存在感を持つものになってきたのだと実感できる“聖地”だった。

(12)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリーの野茂英雄展示
(12)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリーの野茂英雄展示
(13)1966年にドジャースが日本ツアーを行ったときに贈られたはっぴなど
(13)1966年にドジャースが日本ツアーを行ったときに贈られたはっぴなど
(14)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内のイチロー展示
(14)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内のイチロー展示
(15)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内の大谷翔平展示
(15)「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内の大谷翔平展示
「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内の大谷翔平展示にはデコピンも
「ヤキュウ・ベースボール」展示ギャラリー内の大谷翔平展示にはデコピンも