日本ボクシング界史上最大級のビッグマッチが明日13日(現地時間12日)に米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで挙行される。
WBA世界ライト級タイトルマッチ。4度目の防衛戦に臨む王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)に挑むのは、史上最速の12戦目での3階級制覇をもくろむワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)。米スポーツ専門局ESPNのパウンド・フォー・パウンド(全階級通じての最強選手)で1位に君臨する挑戦者に対し、ベネズエラ生まれ、日本育ちの3階級制覇王者がどう立ちはだかるのか。時差、開催地などの要素も差し引いても、もっと国内で注目を浴びてしかるべき一戦。12日の前日計量は両者とも一発でパスした。試合まで24時間を切ったこのタイミングで、あらためて展望を進めていきたい。
【特徴、スタイル】
◆リナレス(44勝27KO3敗) 17歳で来日し、15年あまり。艱難(かんなん)辛苦を乗り越えて、ついにキャリア最高のビッグマッチにたどり着いた。10代からスピード、特にハンドスピードは出色で、上下に的確に打ち分けるシャープな連打にも定評があった。「ゴールデンボーイ」の相性ままに、無敗でWBC世界フェザー級暫定王座決定戦に勝って世界王者になったのは07年7月、まだ21歳の時だった。翌年にはWBA世界スーパーフェザー級王座を獲得して2階級制覇を遂げたが、2度目の防衛戦でサルガドにまさかの1回TKO負け。以降、打たれもろさが弱点として指摘されるようになった。
そこから名実ともに「再起」を果たしたのは、近年の敵地でのタフファイトの連続が大きい。14年12月にプリエトに勝利してWBC世界ライト級王座を獲得して3階級制覇した後、16年、17年とクロラ(英国)をマンチェスターで撃破。WBA同級王者も手中にして、評価を上げてきた。
階級を上げても落ちないハンドスピードの速さは天下一品で、もともと体格自体も身長173センチでライト級にフィットしていると言える。プロ生活15年目で脂ののりきった成熟期に大一番を迎える。
◆ロマチェンコ(10勝8KO1敗) 相性は「ハイテク(高性能)」。その名の通り、いま最も高度な技術を誇るボクサーの1人と言える。08年北京、12年ロンドンを五輪2連覇。鳴り物入りでプロ入りすると、3戦目でWBO世界フェザー級王座を獲得して世界王者に。16年6月にはWBO世界スーパーフェザー級王座を射とめて、最速7戦目で2階級制覇を成した。
その特徴はスピードとフットワークの織りなす多彩な角度からの幻惑的な攻撃。打った後には同じ場所にはいないのは常で、最も嫌がるポジションに敏感に位置して次々に放たれるパンチの嵐に、対戦相手が亀のようにガードを固める様が散見される。一気に敵の背後近くに回ったと思いきや、逆に真横から正面に滑るように登場するステップは、驚異の連続。ここ4試合は手も足もでなくなった相手を棄権に追い込んでおり、棄権宣言の「ノー・マス」、スペイン語で「もう十分だ」という言葉にかけて、自ら「“ノーマスチェンコ”に改名しましょうか」とおどけてみせる。
【展開予想】
「最初はジャブで相手のスタイルや出方とか様子を見てみて、彼は早いからね。バランスと止まらないで動き続けることが僕にはとても大切かな」。9日に行われた公開練習後にリナレスが見通した。序盤の勝負の鍵はジャブで、ロマチェンコをどれだけコントロールできるかだろう。
リナレスのジャブは当てることよりも、相手の動きを抑制し、なおかつ自分の距離感へと誘導していくための要素が強い。フェイントなどを混ぜながら、その先の組み立てへの導火線として放たれる。
ロマチェンコがその餌食になるかどうか。これまでリナレスほどのハンドスピードを持つ右のボクサーファイタータイプとの対戦成績はない。さらにリーチでも約10センチほど差があり、容易にはジャブをかいくぐって出入りを繰り返すことはできないと見る。長い距離に留められてしまえば、これまでの11戦にはなかった展開に見舞われる可能性はある。
リナレスと同門のWBA世界ミドル級王者村田諒太(32)の言葉を借りると、「階級が下の選手が上に上げたときのアドバンテージはスピードになりますが、ホルヘには通用しないと思う。かつフィジカル的にも差がある。ロマチェンコがそれだけホルヘのパンチに反応できるかどうかが勝負の分かれ目」ということになる。加えて、何よりリナレスが勝つのは右ストレートを当てなければならない。スピードで従来通りにコントロールした上で、変幻自在のステップ、柔軟な体に右をどう合わせていくかも問われることになる。
直前のオッズではロマチェンコ勝利が1・08倍、リナレス勝利が7・5倍、引き分けが26倍(ウィリアムヒル)と出ている。13連勝中、サウスポーとの連戦が続くリナレスを考えると、離れすぎの印象が強い。少なくとも「ノーマスチェンコ」が続く展開にはならないだろう。【阿部健吾】

