プロボクシング元統一世界ヘビー級王者のマイク・タイソン(54)が、15年ぶりのリングで往年の片りんを見せた。ミドル級からヘビー級まで4階級を制覇して2年前に引退したロイ・ジョーンズ(51=ともに米国)と2分8ラウンドの特別ルールで対戦。全盛期の豪快なKOシーンはなかったが、強烈なボディーブローで終始圧倒した。公式な採点はなく、WBCが選定した元王者3人の参考採点は引き分けだった。

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開始のゴングが鳴ると、タイソンは高速の左ジャブを突いて前進した。

現役時代と同じ戦闘スタイルだった。全盛期のベストウエート220・4ポンド(約99・97キロ)に絞り込んだ体には、15年5カ月のブランクを感じさせないスピードと切れがあった。ジョーンズはクリンチとフットワークで決定打を封じるのに精いっぱい。参考採点はドローだったが、試合は常に前進を続け、ボディーを攻め続けたタイソンが圧倒した。

狙っていたKOは逃したが、試合後は「2分が3分のように長かった。引き分けでいい。15年もブランクがあったんだ。今は8回、戦い抜けたことで喜びを感じている」とタイソンは満足げ。「ボディーは本当に効いた。タイソンはすごかった」と脱帽しきりのジョーンズに「よく持ちこたえたよ」と余裕の笑みで声をかけた。

ともにヘビー級を制した名王者だが、もともとミドル級(72・57キロ)だったジョーンズに対して、タイソンはナチュラルなヘビー級。パワーの差が勝敗を決めると予想され、直前の賭け率も15対8でタイソン有利。KO決着が期待されていたが、2年前まで現役だったジョーンズの“実戦勘”の前に、最後まで決定打を打ち込めなかった。

当初、2人は通常の10回戦を望んでいたが、安全管理のためカリフォルニア州アスレチック・コミッション(CSAC)は1ラウンド2分のエキシビション8回戦とし、使用グローブも通常の10オンスより大きな12オンスになった。しかし、ボクシング史に残る王者同士の夢対決は“今年最大のビッグマッチ”とも言われ、タイソンの最低報酬は日本円で10億円以上。無観客でのイベントだったが、視聴ごとに課金されるテレビのPPV(ペイ・パー・ビュー)の売り上げが好調で、2人の最終的な合計報酬額は50億円を超えるといわれる。

圧倒的な知名度を誇るタイソンが「往年の片りん」を見せたことで、今後も相手を変えたエキシビションが行われる可能性もある。「またやりたい。人々を励ますために試合に出たんだ。みんなが喜んでくれればいい」と本人も“次回”に乗り気。時代が変わっても、伝説の鉄人の圧倒的な存在感は健在だった。

 

◆マイク・タイソン 1966年6月30日、米ニューヨーク州生まれ。85年3月のプロデビューから19連続KO勝ち。86年11月、バービックからWBC世界ヘビー級王座奪取。87年にWBA、IBF王座も奪い3団体統一。6度防衛後、90年2月に東京ドームでダグラスに敗れ王座陥落。暴行罪で92年から2年間収監された後、96年3月にWBC王座、同9月にはWBA王座奪回。同11月、ホリフィールドに敗れ陥落。05年6月にマクブライドに6回TKO負けして引退。50勝(44KO)6敗2無効試合。身長178センチの右ファイター。近年は俳優としても活躍。