ボクシングWBC世界バンタム級1位の那須川天心(26=帝拳)が編集長を務める不定期コラム「天心新聞」第3回のテーマは「人生に飛び級はない」です。23年4月にボクシングデビューしてから2年以上が経過。6月8日、東京・有明コロシアムでWBA世界同級6位ビクトル・サンティリャン(29=ドミニカ共和国)とのランカー対決が世界前哨戦になります。無敗の格闘家として知名度、注目度が高い中でも無理に背伸びせず、地道に黙々とボクシング道を突き進んできた理由を自らつづります。
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新年度が始まって2カ月が過ぎつつあるけど、もう新入社員が退職したなんて話を聞いていて。マジでどうしてなんだろうと。嫌なことがあるとすぐ辞めちゃうなんて。いろいろなことに挑戦したり取り組むことができる時代だけど、僕は世の中を見て、その方向性がちょっと違い過ぎるかなと感じますね。
例えばバイトに行って初日に先輩や上司に怒られました。じゃあ少し嫌だから辞めますなんて…そうじゃないでしょ、が僕の考え。結果だけ見る人、求める人が増えたのかなと思う。今は個人でメディアも持てるから、いろいろなことに手をつけられる。でも薄っぺらいというか。個人差はあるけど、何事も成功する人は3~5年は同じことをやれる。やれない人は何やっても僕は成功しないと見ている。誰も見てないところで誰もができることを続ける。それをおろそかにしてはいけないと思っている。
知名度を上げることだって1~2回、テレビに出たら有名になると思っている人がいるけど、そんなことはないですよ。出続けないと有名にならない。僕は世間にキックを認知させたくて年間9試合やって、その間は売れっ子タレントみたく週5~6日はテレビ収録にも参加して。当時は日本の全員に知ってもらおうという野望があったので。そうすればキックが盛り上がるし、名前も売ればお客さんが来ると考えましたね。
僕が全国区になれたかなと思えたのは(22年6月、武尊戦の)THE MATCH後ぐらい。結局、デビューから8年ぐらいかかった。一瞬で有名になったわけではないし一瞬だとすぐ忘れられる。SNSで、こうしたらバズるとか有名になれるとかお金が稼げるとか出てくる。そういう誘惑に負けちゃう人がいるけど、何事も一瞬で身につかないし、ものにならないよと伝えたい。
格闘技も、すぐ強くはなれない。コツをつかんだ後からが大変で。感覚だけでやっちゃうとできた理由が分からないし論理がない。何かあるんじゃないかという疑い、もっとあるよねという向上心、1回は検証する時間が必要で。空手道、柔道と言うように極めるとは「道」なのかなと。点ではなく線なのだと思う。
2年前、ボクシング界に来てから「いつ世界挑戦なのか?」って聞かれて。まあ転向する時点でいろいろなことを言われたし、絶対にそうなるとも想像していた。例えばだけど短絡的に注目度や数字だけを取りにいくだけなら初戦でタイトルマッチや名前のある強敵と対戦し、注目の瞬間最高視聴率を取りにいけばいい。でも一発勝負で終わっちゃうし、ボクシングの舞台や文化に失礼にあたると思うし。いきなり自分の庭だけ持っていって荒らして焼け野原にするのはどうかなと。礼儀がないというか誰にも好かれないし、正しくないやり方。僕は真摯(しんし)にボクシングと向き合いたかったので。
そもそもボクシングは甘い世界ではないと思っていたし、絶対に爆発するための「屈伸」が必要で。僕と所属ジムの(本田)会長との考えに相違はない。その中でもやっぱ強い相手を選んでくれる。会長は世間の声も分かってくれるし全部を任せている。僕は帝拳ジムという会社に入ったようなもの。なので社長(会長)の言うことはしっかり聞く。そこから対話が大事で、指示が理解できないまま終わっちゃいけないと思う。
何をしても疑問は生まれるし、人間だから考えが違うのは当然。一緒に良いものを作ることはボクシングだけじゃなく、仕事や生活でも同じ。ただ指示に萎縮して「はい」って言っちゃったら、できなきゃ怒られる。まず「こういうことですよね?」「こういうことですか?」と納得できるまで聞かないと、何事も100%で取り組めないでしょと。同じことを何度も聞き返したら怒られるけど、普通は聞き返されて嫌だと思う人はいないと思ってる。
本当の一流とは何を言われても怒らない人。変なプライドが邪魔して怒りが生まれるもの。怒るのは想像していないことが起きる時で、想定の範囲内なら怒らないし。こっちが常に学ぶ姿勢で目的を持って聞けばいいと思う。自分は聞くことが全部、学びだと考えている。友達や同世代、先輩や年上にも、子どもからも学ぶこともある。もちろん譲れない考えはあるけど、すべて自分が正しいなんて思っていない。思考も毎日のように変わる。それが成長で人間の殻を大きくしている。僕にはプライドがないし最悪、みんなの前で全裸にもなれる。懐の広さが大事だと思うから。
「神童」って勝手に言われていただけで、僕は神格化されるのも格好悪いと思うし。僕は「そうじゃないよ」と言いたい。ただ物事を理解しようという力が、他の人よりも少し多かっただけ。6月8日、世界前哨戦が待っている。「飛び級」せず、地道にやってきたボクシングで勝つつもりなので、楽しみにしていてください。
那須川編集長が「天心新聞」で語ってほしいテーマを募集しています。日刊スポーツの読者に向け「新聞を読む世代の方が僕のことをどう思っているのかも知りたいです。一緒に盛り上げてもらえたらありがたいです」とメッセージ。応募は、専用サイト(https://quiz.nikkansports.com/answer/pc/1219)まで。または、氏名、連絡先、語ってほしいテーマ、ご意見などを明記のうえ、封書、はがきでも受け付けます。〒104・8055(住所不要)日刊スポーツ新聞社スポーツ部「天心新聞係」まで。

