高いレベルの優勝で綱とりの可能性がある大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が、横綱3連戦を前に全勝で乗り切った。鋭い出足で大関照ノ富士を押し出し。13年夏以来、自身2度目の無傷の12連勝を飾り、今日13日目に横綱白鵬との全勝直接対決に挑む。過去、互いに優勝争いを演じる中での終盤の白鵬戦は、苦杯をなめてばかり。今度こそ…の思いで、相星決戦に臨む。

 息が詰まりそうな緊張感を無事に乗り越えても、稀勢の里は何ひとつ表情を変えなかった。安堵(あんど)を感じさせるしぐさはない。かといって、気迫に満ちた険しさもない。まさに威風堂々。自身がモデルとなった夏場所ポスターの文言通りのたたずまいで、勝ち名乗りを受けた。横綱3連戦を残して、全勝で来た。

 冷静な立ち合いだった。相手は両膝にケガを抱えて9連敗中の照ノ富士。変化など、あらゆる想定をしていた。突っかけられて不成立だった後の2度目の立ち合い。決して、突っ込み過ぎなかった。胸を出して受け止める。それでも圧力で上回るのが、今の稀勢の里。左で抱えながら、強烈なのど輪で巨体を起こした。一方的な押し出し。「思い切ってやった。良かったです」と静かに息を吐いた。

 12日間を終えた今場所。総取組時間は幕内で4番目に多い。一番に平均20秒かけている。しかし、息が乱れた姿がまるでない。「伸び伸びやってますよ」。

 もともと体力には自信があり「昔からやらされて、スタミナだけが取りえだから」と笑う。だが、場所前の春巡業でさらに培った。

 これまでは同じ力士と相撲を取り合う「三番稽古」を好んできたが、貴乃花巡業部長(元横綱)から「どんどん相手を代えて行け」と指示を受けた。一番ごとに体力を回復させて全力で来る力士を、1人で回す。新鮮な圧力を受けて、しかも動きがそれぞれ違う。「とっさの反応も養える。息も上がる。番数にはないものがあることを、貴乃花親方は教えてくれたのかもしれない」。培った力で、取りこぼしなくやってきた。

 いよいよ最初の横綱戦。しかも、白鵬との全勝対決を迎える。場所前、二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は綱とりについて「3横綱を倒して優勝すれば無条件」と話していた。過去13勝42敗。互いに優勝争いを演じる中での対戦では、幾度となく煮え湯を飲まされてきた。勝ってもまだ終わりではないが、勝たねば初優勝も、綱とりの夢も続かない。「集中してやるだけです。1日1日、集中して」。最大の難関に立ち向かう。【今村健人】

<1差以内の優勝争いで迎えた稀勢の里-白鵬戦>

 ◆12年初11日目 9勝1敗同士で対戦。白鵬が、新大関だった稀勢の里を圧倒して押し出した。優勝は把瑠都。

 ◆13年夏14日目 全勝対決。白鵬が相手十分の左四つから攻めて、最後はすくい投げで体ごと押しつぶした。優勝は全勝の白鵬。稀勢の里は千秋楽の琴奨菊戦も敗れ13勝2敗。

 ◆14年夏12日目 10勝1敗同士で対決。立ち合いが2度仕切り直し。3度目は重心を後ろに戻しかけた稀勢の里のスキを突くように、白鵬が鋭く立って一気に寄り切り。優勝は白鵬。

 ◆14年九州12日目 白鵬が10勝1敗、稀勢の里が9勝2敗で対決。白鵬が、得意の右四つから上手投げで転がした。優勝は白鵬。

 ◆16年春11日目 稀勢の里10勝、白鵬が9勝1敗で対戦。2度目の立ち合いで、白鵬は左で張って右でかちあげ、一気に土俵際へ追い詰め寄り倒し、3秒8で決着。優勝は白鵬。