札幌競馬場のスタンド前と内馬場を結ぶ地下道には、知る人ぞ知る巨大な壁画が描かれている。札幌時計台や赤れんが庁舎、あるいは函館の五稜郭タワーや日高の牧場風景など、北海道のさまざまな名所を背景に、200頭を超える競走馬が疾走。その迫力と緻密(ちみつ)さは圧倒的だ。作品タイトルは『北海道ステークス3,000km』。高さ約2・3メートル、全長100メートル超の大作を手がけた黒地秀行さん(37)に、制作当時のエピソードを聞いた。

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スタンド側を背に地下道入り口に立つと、右側の壁には函館競馬場、そして左側には札幌競馬場が描かれている。内馬場方面へと1歩ずつ進んでいけば、右手には日高の牧場風景や門別競馬場、帯広ばんえい競馬、釧路や知床などの大自然が広がる。左手にはクラーク博士の銅像で有名な羊ケ丘展望台、さっぽろテレビ塔、すすきのの繁華街など、札幌の名所が次々と展開されていく。黒地さんは自身の作品について解説する。

「1周すれば、北海道の景勝地と札幌の街並みを観光できるようになっています。ターフパーク(札幌競馬場の馬場内エリアの愛称)が家族向けの施設ということでしたので、ただの通路ではなく家族でウォールアートを指さして、『ここに行ったね!』などと語り合いながら思い出を振り返る場所になればと企画しました」

そうした背景の前を駆け抜けるのが、200頭をゆうに超えるサラブレッドたち。よく見れば、芦毛の馬体に黒い覆面、赤地に白袖赤一本輪の勝負服が。これはまさしくゴールドシップでは! ほかにも、見覚えある勝負服の騎手を背にした馬が多数存在する。実際のところ、壁に描かれた有名馬はどれぐらいいるんですか?

「とにかく多くの資料を元に描いていたので、把握できていない馬や有名馬に似ている馬も多くあると思います」

そうしたなかで、明確にモデルにした競走馬として名前が挙がったのは約20頭。当地に深い縁を持つ競走馬というリクエストを受け、ゴールドシップ以外にはゴールドアクターやファインモーション、スカーレットブーケなどが描かれているという(そのほか10数頭の有名馬については、「日刊スポーツ競馬極ウマ」(会員制)に記載されているのでぜひご確認を)。

制作は2018年。その1年ほど前に黒地さんは、銀座のソニービルで開催されたイベントで同規模のウォールアートを手がけた。その作品をJRA担当者が見ていたことが、札幌競馬場のこの作品につながった。

「ご依頼を受けてから1カ月ほどはご担当の方と打ち合わせをし、構想を詰めていきました。作画期間は4カ月間程度だったと思います」

ちなみに当時の黒地さんは、神奈川県の新丸子で暮らしていた。現在は東京都町田市在住とのことだ。

描写を重ねるうえで、難易度が高かったのが、いくつもの背景を1枚の絵につなげること。難しさと同時に、やりがいも感じたという。

「写真だと組み合わせた時にズレていることが違和感になるのですが、絵だとその違和感も面白さにできると思っています。絵巻物を描いているようで楽しかったです」

制作者の高揚感は、両側の壁からあふれるほど伝わってくる。

銀座ソニービルのウォールアートはイベント期間限定の展示だったという。

「札幌競馬場では長期的に展示していただけるとのことだったので、10年後も恥ずかしくない作品になるようにと気の引き締まる思いでした」

作品完成から今年で8年。描かれた背景は輝き続け、人馬はいつまでも躍動する。【奥岡幹浩】

 

「日刊スポーツ競馬極ウマ」(会員制)では、このコラムでは紹介しきれなかった黒地さんの一問一答を全文収録しています。

◆黒地秀行(くろち・ひでゆき) 1989年(平元)兵庫県生まれ。13年多摩美術大情報デザイン学科卒業後、フリーランスのイラストレーターとして開業。主な作品は「”It's a Sony" Exhibition Part-2」(銀座ソニービル)、「北海道ステークス3,000km」(札幌競馬場)。23年には京都競馬場のモチノキ時計壁画、最近ではサッポロラガービール限定缶のイラストを手がける。