ロブチェンを相棒に、史上初の牡牝3冠制覇に挑む松山弘平騎手(36)の真骨頂とは-。その名も「松山弘平の凄さ」と題した連載で、親交の深いホースマンたちを取材した。第2回は松山騎手の師匠、池添兼雄元調教師の長男・池添謙一騎手(47)。自分をコントロールする心の強さ、“池添イズム”を引き継ぐ根性をたたえる。

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父である池添兼雄師が弟子をとった。松山弘平という騎手だった。息子の謙一騎手は、弟の学調教師とともに「3兄弟みたいなもの」とかわいがった。自身は鶴留厩舎所属だったため直接の弟弟子ではなかったが「おやじが1人だけとった弟子だから」気にかける存在だった。「その頃からみんなに好かれていた。あたりもやわらかいし、謙虚だった」と印象を振り返る。ただ、常に周囲に気を遣う優しさの内側にある、確固たる信念も感じていた。

「イライラしているところを見たことがない。見た感じはふわふわってしてるけど、本当に芯がしっかりしている。馬に乗りたい欲がすごい。ケガをしても乗ろうとする。『こんなのケガのうちに入らんやろ』と思ってるんだろうね。おやじもそうだったし、俺もそんな感じ。“池添イズム”かも(笑い)」

そんな松山騎手が計り知れない重圧を背負った年がある。デアリングタクトが牝馬3冠を獲得した20年だ。オークス前、松山騎手から心の内を打ち明けられたことがあった。「乗り越えないといけないのは自分。走るのは馬。この馬が強いって信じるしかない」と池添騎手は伝えた。その言葉をしっかりかみしめた松山騎手は馬を信じ、牝馬3冠へ導いた。

現役の牡馬3冠ジョッキーは武豊騎手と池添騎手の2人のみ。「ラスト1冠は一緒だとしても、秋華賞の2000メートルと菊花賞の3000メートルは全然違う。でも、プレッシャーはあってこそだと思う。本人が乗り越えないといけない壁」。経験者の言葉には重みがある。

松山騎手がロブチェンと偉業に挑む菊花賞で、池添騎手はショウナンハヤナミに騎乗する。「もちろん応援したいけど、一緒に出るからには負かしにいくつもり。阻止したい気持ちは強い」。偉業へのプレッシャー、立ちはだかるライバル、そして自分自身。乗り越えるべき壁に挑む“弟”にエールを送りつつ、“兄”もまた勝負に臨む。【下村琴葉】