ガイジンには頭痛い家探し

 当然だけどイタリアでは僕はガイジンなので家探しはもっとも頭を痛めるところだ。しかし、幸いなことにこれまで約20年間、一度も家探しをしたことがない。1997年にミラノに来たときには友だちが出たばかりのアパルタメントの部屋をそのまま引き継いだ。2001年に今の町に越したのは、この家の家主が語学学校の先生の伯母さんだったからだ。今の家は実は人生でもっとも長く住んでいる。気に入っている。しかし、大家さんも90歳を超えアパート経営がつらくなったため売却することになり、残念ながら去る時が来た。といっても、直線距離で300メートルほど移動するだけ。そのくらいこの町が気に入っている。

4年間家賃の値上げなし

 イタリアの賃貸契約は基本的に「4×4」と呼ばれる条件になる。これは4年間は家賃の値上げなしに住め、借家人が望めばもう4年、合計8年間は大家が一方的に追い出すことはできない。借家人優位の習慣が残っている。

 もっともこれを悪用して、今のアパートには4年間一度も家賃を払わなかった借家人がいた。敷金の時から小切手を渡しては、その日のうちに全預金額を下ろしてしまう。なんだかんだと言い訳を付けてこれを繰り返し3年目に消えた(家賃の支払いは基本的に3カ月ごと)。気の毒にも大家さんはその後、弁護士を雇って合法的にこのインチキおやじを追い出す手続きを取らなくてはならなかった。家賃は取れない、弁護士費用は負担させられる。アパートを売る気になったのも、これがきっかけだった。

自営業は公認会計士が必要

 一般的にイタリアでは敷金は納めるが礼金に相当するお金はない。不動屋さんを通せば、その手数料が取られるくらい。

イタリアでは引っ越しはハシゴ車やクレーン車を使ってベランダや窓から搬入する。古い建物が多く、エレベーターがあっても人用で貨物は積めないことが多いためだ(参考写真。拙宅ではありません)
イタリアでは引っ越しはハシゴ車やクレーン車を使ってベランダや窓から搬入する。古い建物が多く、エレベーターがあっても人用で貨物は積めないことが多いためだ(参考写真。拙宅ではありません)

 面白いのはアパートは家具付きでも家具なしでも借りられる。だいたいがアパート経営のためではなく、先祖代々受け継がれて、家族が減ったりして空家となり、ならば遊ばせていてもと賃貸にすることが多いからだ。

 今度の家はこの町に越したころからよく立ち話をしていた元ミラノのホテルマンのおじさんに紹介されたもの。口コミ、人の紹介。ガイジンはこれを頼らないと。当然、不動産屋を通していないから仲介料もない。家主は地元で会社経営をしていて、件のごとく昔に比べて家族が減ってきたため部屋が余りはじめたので貸しに出しているという方だった。

 契約書を作り会計弁護士のチェックを受ける。イタリアの自営業は公認会計士が必ず必要になる。低所得者である僕にもいる。お金がからむ契約はすべからく彼らの仕事となる。署名をして、これを市役所に提出して、めでたく僕の新居となる…、ハズだった。

前の借家人の“借金”を持つなんて

 いや、家は借りられた。しかし、住むことができないのだ。今は11月の末。ミラノは朝夕は3度くらいまで冷え込む。新しい家にはガスが来ていない。

 前の借家人が半年間もガス料金を支払わなかったため、ガス会社に止められて、その支払いが済まなければ開栓しないというのだ。

 あえりえん。ありえない。前の借家人の問題であって、僕には関係のないことだし。しかし、イタリアはこうなのだ。

 結局、最初の家賃を払ってから3週間すぎても家は暖房を入れられずに寒いまま。仕方がないので、引越しの片づけだけやって、寝泊まり煮炊きは元の家でしている。やれやれ。元の大家が友だちでよかったわ。

「寒い」早く暖房入れてよ

 イタリアでは2番目の家の税金などは高くなるので、今度の家は愚妻さんの名義になっている。そんな事情もあり大家さんとは彼女がメールでやりとりしている。彼は僕と同じ年で腹も出ていない鍛えぬいたイケメン社長。で、今日、ガスの問題で愚妻さんに届いたメールの最後に「amore mio」(私の愛する人)って一文が入っていたそうな。ん? 僕の愛妻を口説いているの??

 気が付いた大家が慌てて再度メールしてきて「さっきのは勝手にメールソフトが定型文を入れちゃっただけ。ごめんなさい。失礼しました」と平身低頭。はたして定型文とやらは彼の奥さんのためのものなのか、はたまた別のamoreのためなのか?

 ま、そんなゴシップはどうでもよい。今は一日も早くガスが使えるようになってほしい。(イタリア・ミラノ在住・新津隆夫。写真も)