「日本で一番海に近い駅」として知られる信越本線の青海川(おうみがわ)駅(柏崎市)、対照的にトンネル内にあって約300段もの階段が待ち受けるえちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの筒石(つついし)駅(糸魚川市)。ともに新潟県にある両駅を続けて訪れた。ともに3度目の訪問となるが、特に青海川駅では、かねてぜひやってみたいことがあった。1駅ずつお伝えします。
柏崎を出発して2駅目。ワンマン運転の電車がホームに滑り込んだ。下車したのは私ともう1人。その方は駅の外に消えていった。ということは、しばらく海に面したこの駅を独占だ(写真〈1〉)。くもり空ではあるが、しばらく雨の心配はなさそう。舞台はすっかり整った。心の中で快哉(かいさい)を叫ぶとはこのことだ。さっそく準備にかかろう(写真〈2〉)。
「一番海に近い駅で酒を飲みながら駅弁を食べる」
以前からやってみたかったことのひとつ。なんともバカバカしい企画ではあるが、実は各地の駅で景色をさかなに「決行」してきた(笑い)。アルコールOKなのが鉄道旅の醍醐味(だいごみ)なのだ。だが最近はなかなかうまくいかない。条件は2つで、ひとつは気候。真夏、真冬はもちろん避けて雨も勘弁願いたい。そしてもうひとつが静寂なのだが、こちらが難しい。
JR最南端の駅として知られる西大山駅(鹿児島県)では、わざわざ青春18きっぷの季節を外した平日を選んだにもかかわらず、次から次に人がやってきて落ち着かなかった。鉄橋で有名な餘部駅(兵庫県)は、以前はOKだったが、今は道の駅併設となってしまい、もう無理だ。逆に姨捨駅(長野県)は外向きベンチがあるので、人が多くても気にならない(※)。
今回の青海川はあまりにも有名だし、アクセスも容易なのでビクビクしていたが、これで大丈夫。いつもはビールだが米どころの新潟だし、ここは日本酒でしょう。日本酒となると駅弁も魚系がいいのだろうが、鉄道好きとしては「SLばんえつ物語弁当」である。まずは駅名標の前でグイッとひとくち(写真〈3〉)。
弁当を取り出す。野菜に魚、鶏肉そして炊き込みご飯。心地よい風と海の音にすてきな酒が加わって実にウマい(写真〈4〉〈5〉)。ペロリと食べてしまい酒を飲み干す。この間ずっと1人。至福の瞬間だ。
駅を出てホーム沿いの小径を歩いていくと海に向かう階段に出られる(写真〈6〉〈7〉)。しばらく海岸でぼんやりして戻ると、いつの間にか柏崎行きホームにお客さんが来ていた。カップルと若い女性2人組。はしゃぎながらの記念撮影を見ていると地元の方でも鉄道ファンでもないようだ。次の電車に乗り込んでいった。「一番海に近い駅論争」があるようだが、やはりこの駅には人を魅了する何かがあるのだろう。(写真〈8〉〈9〉)
青海川駅が最も美しいのは夕日の時間帯と言われる。残念ながら、私はその時間に来たことがない。次回は必ず、と思いつつ電車に乗り込んだ。その時はどんな酒を持ってこようかな。【高木茂久】
※こういう駅にはゴミ箱がないことが多い。ゴミは必ず持ち帰りましょう