どうやら「廃虚ブーム」の影響もあるらしい…。「北海道に人気の橋があります。それも、今にも朽ち果てそうな橋…」。JR北海道さんの誘いに乗って7月の初旬、帯広まで飛んだ。橋の名は「タウシュベツ橋」。朽ち果てていくものへの郷愁か? はたまたインスタ映えを狙っての人気か? この目で確かめたかった。



帯広駅から、バスで2時間弱。ひたすら北上して、ほぼ、北海道のおヘソあたり。上士幌町糠平(ぬかびら)という地で降りる。

そこには「糠平温泉文化ホール」。その中に「NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンター」がある。ここのガイドで、タウシュベツ橋を目指すのである。

長靴に履き替え、車に4、5人ずつ分乗して20分も走るだろうか。「熊出没注意」の看板を横目に、今度は深い林の中を歩き出す。10分ほど歩いて、目の前に湖がいきなり見えた。

そして、遠くには大雪山系の山々。湖からはうっすらとモヤが立ち上がっていた。美しく広々とした夏の北海道が目の前に広がる。

「もうちょっと進んで、そう、そこから横を見る感じで…」

後ろから、ガイドさんの声がかかる。その通りに、もうちょっと進んで、振り返り気味に首を横に向けると…。

「あっ! あった!」

ありました。まるで古代ローマの遺跡のようなアーチ橋が。

全長130メートル、幅3メートル。その昔、ここを走っていた国鉄士幌線を支えていた「タウシュベツ橋」。


水位が下がると「タウシュベツ橋」が全容を見せる。じっと見つめる女性の姿も(7月上旬撮影)
水位が下がると「タウシュベツ橋」が全容を見せる。じっと見つめる女性の姿も(7月上旬撮影)

1939年(昭14)に開通した帯広~十勝三股間を走る士幌線に合わせて1937年に造られた鉄道橋。

その後、1955年にここに糠平ダム湖が完成すると、橋を通る旧線は廃線となり、湖内に放棄された。

時は流れ、2008年(平20)、熟年世代などをターゲットにした「フルムーン旅行」全盛の時、この地がポスターに採用され一気に注目されたという。

ちなみにその時のコピーが「ピカピカだっただけの頃より、いまのほうが輝いている気がします」。

うまいことを言う…。

そして、今は、「廃虚ブーム」とインスタ映えブームで、また火がついた。

「今年のゴールデンウイークには1日100人も、わたしどものツアーだけでご案内しました。もうフル稼働です」(ガイドの河田充さん)。

自然の悠久の中に、人工が残した有限の建造物。くっきりとしたコントラストが不思議な感動を呼ぶ。

そして、もうひとつ、この景観の魅力は季節によって際立つ変貌であろう。

取材に訪れたのは7月の初めだが、8月も終わりの今、その姿は? 電話でガイドセンターに聞いてみると、湖の中だという。

「今は、水の中に沈んで見られません。次に全貌を現すのは1月の中旬ごろ、それから2月中旬ぐらいまででしょうか。この時期は水力発電でダムの水をたくさん使いますので、水位が減り、橋が姿を見せることになります。氷の上に立つ橋の姿も素晴らしいですよ。その後は、この辺りは氷の氷解の危険により立ち入り禁止。そして春が来て、5月ごろからまた6月、7月と、見られることになると思います」

いささか長いコメントの紹介になったが、見られる季節は限定的だ。

そして、これから何年か先、その季節がきたとしても、いつまでもその姿をとどめているかどうか…。崩れゆく姿は、寂しくも、また、美しいようにも思えた。【馬場龍彦】

※見学に行かれる場合は、事前に状況を確認された方がいい。今回お世話になった「NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンター」では、タウシュベツ橋以外でも、周囲のアーチ橋を見るツアーは実施している。詳しくは【電話】01564・4・2261。


厚岸町で道東名産カキを堪能

この道東での名産といえばカキがある。今回は厚岸(あっけし)町でカキをいただくことに。ここのカキは国内で唯一、年中出荷できることでも知られる。「身はふっくらと育ち、甘みが濃厚なのが特徴です」と現地のガイドさん。

「湿原の養分を含んだ淡水の川と、太平洋の海水が混ざる厚岸湖、その恵まれた自然環境がカキをおいしく育てています」

そして、このおいしいカキを食べられる施設のひとつが、道の駅「コンキリエ」(コンキリエとはイタリア語で「貝」の意味)。

この施設内には地元ウイスキーとカキをセットで楽しむコーナーや、自分で海産物を選んでそれを炭火にのせて豪快に焼いて食べる炭火焼きコーナーがある。

どちらも厚岸産のカキの美味を十分に堪能できる。

また、この厚岸には「カキえもん」「マルえもん」「ナガえもん」と、育て方により微妙に違う3種類のカキがある。食べ比べてみたが、どれもおいしく、その差はちょっと分からなかった。まぁ、訪ねられたら試してみてください。

道の駅「コンキリエ」には地元のカキを焼いて食べるレストランも
道の駅「コンキリエ」には地元のカキを焼いて食べるレストランも

<花咲線使い本土最東端の納沙布岬へ>

根室線の釧路~根室間を通称・花咲線と呼ぶ。この花咲線に乗るのも今回のツアーのもうひとつの目玉だった。

「だだっ広い牧草地や海岸線を1両(時に2両)で、ひたすら走る姿が美しい」と観光客に人気を呼んでいる。それに加えてJR北海道でもこの列車に乗って観光気分をより盛り上げて欲しいと、いろいろ工夫をこらし始めた。観光ポイントでの減速運転やスマホと連動させた音声案内。ご当地弁当の出張販売などなど…。一部の普通列車で、観光サービスを行っている。

で、実際に乗ったのは「ルパン三世」のラッピングが車両に施してあった。

「運がいいと北の大地の野生動物と遭遇しますよ」という車内アナウンスを待つまでもなく、タンチョウヅル、エゾシカ、オジロワシ…。車窓から北の生き物たちを確認することができた。

「あっ、いた」「見えた?」という発見が車内を楽しい気分にしてくれる。そしてお弁当も。今回食べたのは「焼さんま寿司」と「かきめし」。どちらも濃いめの味付けが旅の疲れに、おいしく感じられ、景色に負けず胃袋に染みた。

そして、花咲線の終点「根室駅」のひとつ手前の「東根室駅」で降りる。ここからバスに乗り換え30分。根室半島をひたすら東に走れば、本土最東端の「納沙布岬」に到着する。

「霧で有名な地です」

そう言われて、改めて周囲を見渡せば、白く立ち込めた霧の中。それでも、目を凝らすと海のかなたに国後島が見えるのである。


本土最東端の「納沙布岬」でパチリ
本土最東端の「納沙布岬」でパチリ