水産庁が「魅了ギョ・プロジェクト」を始動させた。水産品の持続的な消費拡大を目的に同庁、漁業者、自治体など1100以上の賛同メンバーによる官民連携で、「さかなの日」の新たな取り組み。十分知られていない魚の魅力やおいしさを発信し、消費者の「食べたい」を増やすことを狙いとしている。まずは釣り人も敬遠するアイゴ、ボラ、アカエイ、シイラを重点魚種としている。

農林水産省の食堂で提供された「瀬戸内三昧御膳」ではボラのフライがメニューに加えられていた
農林水産省の食堂で提供された「瀬戸内三昧御膳」ではボラのフライがメニューに加えられていた

★それぞれ独特の外見

「おまえじゃないんだよ」。釣り人なら、釣れた瞬間に思わずこう叫ぶだろう。

コマセ釣りの外道で、海藻を食い荒らす磯焼けの原因となる食害魚のアイゴ、クロダイを狙う静岡・清水港のダンゴ釣りでエサを取ってくるボラ、タコエギに掛かってしまうアカエイ、青物を狙ってルアーを巻いていたらヒットしたシイラ。


それぞれ独特の外見に加え、対象外の釣りとなると歓迎されざるイメージが強い。マダイやアジ、サバなどに比べると低利用魚、未利用魚として「魚カースト」の下の方になる。実は知る人ぞ知る価値ある食材だ。


磯臭さが嫌がられるアイゴは、内臓をしっかり取り除く下処理ができれば煮物や焼き物に向く。水質の良くない汽水域に生息する印象のボラの卵巣のカラスミはウニ、このわた(ナマコの腸の塩辛)と並ぶ珍味だ。きれいな水質の海でとれたら、酢みそをつけてのあらいで食べられる。エイは居酒屋の定番「エイヒレ」、ハワイで別名「マヒマヒ」と呼ばれるシイラはソテー、ムニエルなどに向く。

ボラの刺し身、あらい、皮の湯引き(岡山県庁提供)
ボラの刺し身、あらい、皮の湯引き(岡山県庁提供)
アイゴの煮付け(岡山県庁提供)
アイゴの煮付け(岡山県庁提供)
アカエイのみそ汁(岡山県庁提供)
アカエイのみそ汁(岡山県庁提供)
アカエイの唐揚げ(岡山県庁提供)
アカエイの唐揚げ(岡山県庁提供)

★価値を高めて

「見慣れない魚だと、消費者は食べたいと思わない。生産者側は食べてもらいたい。売る側の工夫も含め、場所づくり、価値と利用度を高めておいしさを再認識する。未利用かもしれませんが、実は人を魅了できる魚であると知ってもらいたく、このようなプロジェクトを始めました」。水産庁加工流通課の吉川千景課長補佐は今回の経緯を説明する。


★岡山とコラボ

手始めに今月3~7日の「さかなの日」には、連携している岡山県と同県漁連でボラなどを使った「瀬戸内三昧(ざんまい)御膳」を監督省庁である農林水産省の食堂で期間限定発売した。岡山県庁水産課の岡崎知治総括副参事は「実はおいしい魚に光を当てたい。学校給食などで知ってもらう。消費者も喜び、漁師の売り上げになれば、地産地消につながる」と、きっかけづくりを強調した。


地球の温暖化に伴い、日本の海を取り巻く環境は確実に様変わりしている。サンマやサケ、スルメイカは不漁が報じられて久しい。北海道でブリ、三陸でシイラが揚がっている。


釣りも同じ。1990年代初頭の東京湾では正月から順にアイナメ、春告魚のメバル、桜の時季に乗っ込みを迎えるサクラダイ(マダイ)、花見ガレイ、梅雨イサキ、照りゴチ(マゴチ)、夏キス、アナゴ、マダコ、秋を迎えてイイダコ、カッタクリで釣るイナダ、それが大きくなって深場へと落ちるワラサ、冬のアマダイに寒ブリ、寒サバ、正月の雑煮のダシを取るために釣る師走のハゼと、旬の釣り物がいろいろあった。


今やLT(ライトタックル)のアジとタチウオが2枚看板。キス釣りの外道で、天ぷらにするとうまいメゴチも最近お目にかかれない。


変化への対応を求められている海の現状を知る。継続、持続できる取り組みを官民一体となってしていく。アイゴ、ボラ、アカエイ、シイラは需要拡大が期待でき、一定の供給量が確保され、消費拡大に向けた課題や解決法が明確として、第1弾に選ばれた。水産庁では今後ブダイ、コノシロ、イスズミなどをプロジェクトの対象魚種として検討しているという。【赤塚辰浩】


さかなの日 毎月3~7日

魚の消費拡大を目指して水産庁が22年10月に制定。毎月3~7日を「さかなの日」とした。日本は世界有数の水産国であり、多種多様な魚食文化が地域に根付いているが、食用魚類の消費が減り続けていることから、官民一体となってその拡大に取り組む。


【ボラ】水質汚染に強く、都市部の河川、港湾、運河などに多くいる。体長は50センチ前後。出世魚で30センチ前後はイナ。老成魚はトド。イナの背と日本橋の魚河岸の若い衆のまげが似ていたことからの「いなせ」、最後を意味する「とどのつまり」は、この魚が由来とされる。

クロダイのダンゴ釣りなどで食ってくるボラ
クロダイのダンゴ釣りなどで食ってくるボラ

【アイゴ】沿岸部の岩礁帯、藻場などに生息し、海藻を食い荒らす。ゴンズイやカサゴ同様に毒魚として知られ、背びれやしりびれ、腹びれのトゲに毒がある。磯臭さがあり、生きているうちに血抜きし内臓が身に付着しないよう処理する。

しっかり下処理をすれば磯臭さはないアイゴ
しっかり下処理をすれば磯臭さはないアイゴ

【アカエイ】砂泥地に潜り、海底の貝類や甲殻類、弱った魚を食べる。尾に毒があり、刺されると危険。鮮度が落ちるとアンモニア臭が出るが、水で取り除ける。煮付けや煮こごりなどでも食べられている。

エギタコに掛かって海面で暴れるエイ
エギタコに掛かって海面で暴れるエイ

【シイラ】ルアーの人気魚種で、パヤオ(浮き魚礁)や流れ藻の下、潮目の表層におり、トビウオやイワシ、イカ類を食べる。ヒットすると、別名「万力」と言われるほどの強烈な引きと豪快なジャンプで果敢にファイトする。


■外道、他にもいろいろ

関東近海の海釣りで、ほかにも外道として掛かる魚はいろいろいる。もちろん、食べてうまいものもいる。

◆マトウダイ イワシの生きエサやアジの落とし込み釣りでヒラメやハタ類、イナダやカンパチなどの青物を狙う時に食ってくる。口が大きく前方に伸び、体の中央部に円形の黒い斑点がある。これが弓の的に見立てたことから「的鯛」と名付けられたという。フランス料理のムニエル、和食の甘辛煮の代表食材。

釣りでは外道でもムニエルなどにするとうまいマトウダイ
釣りでは外道でもムニエルなどにするとうまいマトウダイ

◆ウマヅラハギ これから旬を迎えるカワハギ釣りや、コマセ釣りでよく釣れる。カワハギより格下に扱われがちだが、味は決して劣らない。カワハギ同様に薄造り、肝あえ、干物などに向く。


◆トラギス、キュウセン(ベラ) シロギス釣りで掛かる。ともに上品な白身。トラギスはフライにするとビールのおつまみに最適だ。関東だと雑魚扱いされるベラだが、関西では天ぷらの高級具材として珍重されている。