肺がんは、がんの部位別死亡率で男性の1位、女性で2位、年間約7万5000人が亡くなっています。転移しやすく、治りにくいがんといわれてきました。ところが最近、劇的な効果を発揮する免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」などが登場し、治療方法が飛躍的に進歩しています。肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【著効したオプジーボによる免疫療法】

 3年前、60歳代の男性Aさんは検診のエックス線で、肺に異常を指摘されました。翌月には左足の動きが悪くなり、CT(コンピューター断層撮影)や気管支鏡検査で詳しく調べたところ、肺の非小細胞がんで脳に転移があることが分かりました。

 Aさんは、脳の転移に対するサイバーナイフ(放射線)の治療を受けた後に、抗がん剤治療を開始しました。幸いサイバーナイフ治療、抗がん剤治療ともによく効き、短期入院と外来で1年以上、抗がん剤治療を継続して、仕事もしながら元気に通院していました。しかし、1年前に残念ながら抗がん剤治療が効かなくなって、肺がんが大きくなってしまいました(図1)。

 そこで免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボに治療を切り替えることになりました。2週間に1回のオプジーボの点滴で、大きくなっていた肺のがんは見事に縮小し、オプジーボの投与前にあった足のむくみもすっかり良くなりました(図2)。心配されたオプジーボの副作用もほとんどなく、2週間に1回、元気に外来に通っています。オプジーボの効果は現在も継続しており、外来通院以外は全く健康人と変わらない生活をしています。

 オプジーボは全ての患者さんに効果を発揮するわけではありません。また、いろいろな副作用が出現することも、まれではありません。しかし、肺がんの約20%の患者さんには、Aさんのような劇的な効果を発揮します。さらにその効果が、患者さんによっては年余にわたり継続することが分かっており、中には治癒する人がいるのではないかと期待されています。

 ◆免疫チェックポイント阻害薬 人間には体内に入った細菌やウイルスを排除する免疫の機能がある。排除後も免疫の力が高まったままだと、正常な細胞まで攻撃することがあるため、免疫を抑制する機能があり、これを免疫チェックポイントという。この免疫チェックポイントに作用して免疫抑制を解除し、免疫を活性化させる薬を免疫チェックポイント阻害薬という。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。