肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【これまでの肺がんの薬物治療】

 2000年(平12)以前は、肺がん、特に非小細胞肺がんに対する抗がん剤治療の効果は極めて限られたものにすぎませんでした。

 当時の薬物治療の中心はシスプラチンやカルボプラチンといった白金から作られた白金製剤といわれる抗がん剤と、もう1つの抗がん剤を併用する治療が主流でした。当時の肺がんに対する抗がん剤治療では、30%程度の患者さんにがんを小さくする効果が認められるものの、その効果はあまり長続きせず、延ばせる寿命は数週間~数カ月程度でした。

 また、吐き気などの副作用に対処する薬も今のように進歩しておらず、多くの患者さんが副作用に苦しんでいたことも事実です。副作用が強かったこともあり、抗がん剤治療は主に入院で行われていた時代でもありました。現在でも、その当時の抗がん剤治療のイメージを持っている人も少なくないのではと思います。

 それが02年に肺がんに対する初めての分子標的薬であるEGFR阻害薬イレッサが登場したことにより、大きく変わりました。副作用の間質性肺炎が社会問題になったこともありましたが、これまでに経験したことのない劇的な腫瘍縮小効果、さらに従来の抗がん剤ではなかった長期間の効果持続に、多くの医師が驚きました。現在では、イレッサなどのEGFR阻害薬が効きやすい患者さんを事前に調べることも可能になっています。

 その後、アリムタなどの新しい抗がん剤、ALK阻害薬、血管新生阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬オプジーボなどの登場、さらには副作用に対する支持療法の進歩により肺がんに対する薬物治療は劇的に進歩しています。これらの進歩は、効果に限らず副作用も格段に改善しています。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。