肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【免疫とがん治療】

 ごくまれにがんが自然に縮小したり、消失したりすることは古くから知られており、これには免疫が関係していると考えられてきました。そして、この免疫の力を使って、がんを治療しようという試みは昔から行われています。

 免疫を活性化させる免疫賦活剤、リンパ球などの効果を増強するサイトカイン、がんワクチン療法、身体の外で増やした免疫細胞を投与する細胞免疫療法などさまざまな薬や方法が行われていますが、どれもそれほど大きな効果は得られていません。これらの治療は、患者さんの免疫力を高めようという治療です。

 免疫とは、体内に細菌やウイルスなどの異物が侵入したときに、それらを排除する身体の仕組みです。例えば、風邪をひいても多くの場合は数日で自然に治癒しますが、これは身体に備わっている免疫の力で風邪の原因となるウイルスを排除しているからです。

 異物であるウイルスを排除したあとも、免疫の力が高まったままでいると免疫が自分の身体を攻撃したりして不都合が生じます。それを防ぐために活性化した免疫を抑える機能が身体には備わっており、これを免疫チェックポイントと言います。そして、この免疫チェックポイントに作用して、免疫抑制を解除する薬が免疫チェックポイント阻害薬です。

 近年、注目されている免疫療法は、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬を使って免疫の抑制を解除することにより、がん細胞を攻撃しようという全く新しい免疫療法です。肺がんをはじめ、多くのがんで免疫チェックポイント阻害薬の効果を科学的に証明するデータが続々と得られています。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。