「B型肝炎ウイルス」は、それに感染して急性肝炎が始まり、免疫を獲得した後は終生にわたって治癒するものと考えられている。しかし、近年、そうともいえない状況が生まれている。肝炎に詳しい東京医科歯科大学消化器内科「肝炎・肝がん撲滅外来」の朝比奈靖浩教授はこう言う。

 「実は、ウイルスの遺伝子が肝臓の細胞核の中にずっと潜んでいることが最近分かってきました。そうであっても普通は何も起こらないで済むのですが、たとえば、そうした人が抗がん剤などの強い免疫抑制の薬を投与されるとウイルスが再活性化するのです」

 通常は人体に備わる免疫のおかげで抑えられたウイルスだが、いつかがんの治療などを受けることになった際、抗がん剤や生物学的製剤、ステロイド薬などの免疫にかかわる薬が影響を及ぼし、再び目を覚ますというわけだ。

 「ウイルスが再活性化して肝炎にいたると、劇症肝炎になりやすく、その場合の致死率はほぼ100%という非常に高いことが分かってきたのです。そのため、B型肝炎ウイルスに感染したことがある人がそうした治療を受ける際には、ウイルスが活性化していないかモニターしていくことが求められます」(朝比奈教授)。

 高齢化社会で日本人の2人に1人ががんになる時代。すべての国民がワクチンを受ける「ユニバーサルワクチン」への理解が不可欠だ。

 「しらかば診療所」の井戸田一朗院長も、「日本ではまだB型肝炎ワクチンを打ったことがない人がほとんど。B型肝炎ウイルスは感染力が強く、慢性肝炎、肝硬変、肝がんなど死に直結することがあるが、ワクチンで予防ができるのでぜひ接種してほしい」と強調する。ただし、性感染症予防のワクチン接種は健康保険の適用外。自費にて1回5000~6000円、計3回の接種が必要となる。