感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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新型コロナに対しては、感染症科と呼ばれる診療科が対応に当たると思いますが、残念ながら米国に1万人いる感染症専門医が、日本には1500人程度しかいません。感染症科がない病院のほうが、圧倒的に多いのです。結果的に新型コロナ対応は、呼吸器内科もしくは救命部等が対応に当たったと思います。

さらに、私のような別の内科専門領域の医師が対応せざるを得ないのが現状です。しかも多くの場合、通常業務を継続しながらです。専門のチームがつくられるのは、よほど人員が豊富な病院だけだと思います。

感染拡大があった米ニューヨークの病院は、個別の診療科をほぼストップして、医師を4人1組のチームに再編して診療に当たったとのことです。その際は何科の専門であろうが一律に編成され、「嫌なら退職」みたいな対応もあったと聞きます。このような対応は、戦地における厳しい条件下での医療を経験してきた歴史から来ていると思われます。

日本の場合、なかなか指令系統の一本化は難しいです。会議で話し合っても、終わってから「こうしたほうが良いと思うんだよな」という医師がいたり、全く別のところから指令が出たり、報告なく対応が実行されていたり…。それなりに良識ある人たちで構成されているので大きな問題は起きませんが、統制という点ではあまり取れていないのが現状です。

ただ専門チームや統一対応が改善策かというと、そうでもありません。今回のこの新型コロナは、肺炎だけを起こすのではありません。実にさまざまな病態、病状が観察されます。感染した患者さんには、さまざまな背景があります。患者さんの病状に合わせて対応するというのは、日本の医療が最も得意とする分野だと思います。「各自、現場にて臨機応変に対応せよ」という(ほとんど意味をなさない)指令が、今回に限っては比較的いい方向に動いたと感じております。

でも現場にいる医師としては、今回は「新型コロナという病気」ではなくて、「新型コロナ対応というルール」と戦わされている感覚があるのは、やむを得ないことなのでしょうか?