我々の業界で有名な「リンゴをかじると血が出ませんか?」という伝説のCMがあります。日本人の3人に1人が歯槽膿漏(のうろう=現在は歯周病と定義されている病態)に罹患(りかん)しているという国の調査がきっかけとなり、歯だけでなく「歯ぐきの健康」を考えた商品が世の中に初めて誕生したのが1964年(昭39)の出来事です。
それから半世紀、日本人のオーラルケアに対する意識は様変わりしました。1日に2回以上歯を磨く人の割合が16・9%(69年)から73・5%(2011年)となったことを鑑みると、まさに時代を大きく変えたトピックであることは間違いありません。
同時に、歯周病研究の分野も劇的に進化してきました。歯ぐきからの出血、すなわち局所の毛細血管が破綻することにより、歯周病菌やその炎症性産物が血流に乗って全身を駆け巡る「血行性伝播(でんぱ)」によってあらゆる全身の病気が引き起こされることはすでに広く認知されています。
糖尿病や動脈硬化、リウマチや認知症など、影響は多岐にわたるため、口の状態から全身疾患のリスクを把握する「医科歯科連携」も活発になっています。さらにここ数年で、口腔(こうくう)細菌が腸内細菌叢(そう)までをも乱しているのではないかと考えられるようになりました。「消化管性伝播」というもうひとつの仕組みです。唾液とともにのみ込まれても胃酸などに破壊されて死滅し消化管の中を生き抜くことができないと考えられていた口腔細菌が、腸管にたどり着いて腸内細菌叢の構成に関わっていることがわかったのです。
この分野の第一人者である山崎和久先生(理化学研究所)の講演では、ある種の細菌が腸管から門脈を通り肝臓にも到達しているというトピックがついさきほど紹介されていました。腸内環境を整えるには健康な口から、と断言できる時代はそう遠くない未来かもしれません。(おわり)

