読書にはさまざまな効用があります。読書をとおしてさまざまな価値観や文化を知ることで、他者を尊重する心が育つと同時に、自分自身を知ることができます。それは、えたいの知れない空気に流されないクサビにもなるでしょう。品位や美意識、尊厳というものも養うことができるのも読書。
本を読みたいな、と思うのは平時だけではありません。ぼくはたくさんの被災地を支援してきました。まず必要になるのは、水や薬、食料、衛生用品などです。これらは命や健康にかかわるものだから、自治体をはじめ多くの支援者が気を配ります。
「実はずっと前から本が読みたかったんです」
そんな声がちらほら上がりだすのは、しばらくたってから。本当はもっと早い段階で本がほしかったのに、命に直結する必需品ではないので、言い出せなかったという人もいました。
【昨日よりも今日、成長したい】
がんの末期の患者さんのなかにも、枕元に本を置いている人をよく見かけます。80代のある女性は、藤沢周平の時代小説をよく読んでいました。ぼくが回診に行くたびに読んでいて、しかも、毎回違う作品でした。
「よく本を読んでいますね」と話しかけると、彼女はこう言いました。
「本の知識は、もう私の人生の役には立たないけれど、それでも昨日より今日、少しでも成長したい」
いつ死ぬか分からないというときになって、本を読んで自分を成長させたいと願うなんて、すごいなと思いました。

