4年前…いや5年前の16年リオデジャネイロ五輪。担当したサッカー競技はアマゾン地域の会場もあり、出国前に6種の予防接種(黄熱、狂犬病、A、B型肝炎、腸チフス、破傷風)を受けた。マラリア予防薬も服用した記憶がある。懸念されたジカ熱も、リオ市内では1人も出なかった…とされている。現シュツットガルトの遠藤航、リバプールの南野拓実ら代表イレブンも黄熱、A、B型肝炎、破傷風の4種類を。ジカ熱はワクチンがないため虫よけ薬を大量に持ち込んだ。

振り返れば、開催国のブラジル国民に今回のような不安はなかったと思う。世界中から集まる選手はもちろん、国内を自由に動き回る観客や我々メディアが、南米の感染状況を正しく恐れて入国してくれたから。

一方の日本国民は今、怖くて仕方ない。新型コロナウイルス。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は選手へのワクチン接種は勧めたものの、義務とはしていない。防疫措置もアスリートは万全だが、海外からの観客は違う。昨年12月の対策調整会議の中間整理では14日間の隔離免除、公共交通機関の利用を認める方向で検討、とした(各国の状況による。今春決定)。政府と組織委は行動管理アプリ、五輪ビザとひもづけた顔認証入場システムの開発も既に発注。受け入れ準備を進めている。

ところが、年が明けて状況は激変した。もう「完全な形」は無理だ。やはり最大の懸念である海外からの観客を諦めるしかないのではないか。約900万枚のチケットのうち海外向けは100万枚を販売済み。収入の減少分は都民にのしかかり、インバウンドを景気回復の起爆剤にもできなくなる。02年サッカーW杯や19年ラグビーW杯で経験した一般外国人との交流も失う。ただ、国内在住の観客だけなら昨年から各競技で十分開催実績がある。2月開幕のJリーグや同3月のプロ野球が有観客で五輪だけ無観客も違和感がある。

当然、中止を求める声も理解できる。自分の実家は飲食店、お世話になった近隣の2病院ではクラスターが発生した。身近な人の声は切実で、よく知る病棟名が報道されるたびに心配した。でも、五輪まで嫌いにはならなかった。思ったのは「ここに海外からは怖いな」。外国人観客を入国させないとなれば、必ず受け入れが再開されるビジネス客との違いの説明も必要になる。すべての外国人を7月の開幕まで入れないわけにもいかない。それでも開催へ、妥協点の目玉として海外観客の受け入れ断念を「検討」はしてほしい。何も残らない中止よりいい。