東京オリンピック(五輪)とサウナには、不思議な縁がある。室温100度超のサウナに入り、全身の毛穴という毛穴から大量の汗を出す。「も、もう限界」と感じたら、逃げるように部屋を退出してシャワーを浴びる。キンキンに冷えた水風呂にドボン。「冷めてー!!」と心の中で叫び、外気浴で無になる。この単純動作が大好きだ。

サウナにはまって10年。これまで全国各地の施設を勝手に独自調査してきた。室温や水温、アメニティーグッズの種類や食事を含めた休憩所の充実度など細かく調べた。知らぬ間にそれが趣味となり、「憩いの場」が拡大。仕事と同じく、多い時は週5日、通う自分がいた。自然と仲間もでき、サウナには健康増進に加え、友好促進の効果もあることを知った。毎回1000円前後の入場料で幸福感を得る一方、「自分の幸せはなんて安いんだ」と実感した。

先月、近所のサウナ施設の80代店主から衝撃的な一言を聞いた。「サウナブームのきっかけは、64年東京五輪だったんだよ」。当時、フィンランド選手団が疲労回復を目的に選手村に設置。「ムシブロ」と話題になり、その後、全国的に普及したという。高度経済成長期の70年代には、中高年の楽園としてサウナに泊まって出社するモーレツ社員が続出。そして、19年にドラマ化された漫画「サ道」の影響で若者にも一気に浸透した。意外な縁で、2度目の東京五輪を控えた現在も再び注目を集めている。

たった1年前までは、狭い密閉空間で他人と肩を寄せ合い「何セット目ですか?」「ご自宅はこの辺ですか?」などと世間話をしていた。裸の付き合いのためか、互いの警戒心も薄れ、同じ空間にいる“仲間”だった。担当の柔道では、総本山こと東京・講道館近くの店にふらりと立ち寄ると、偶然いた選手やスタッフと汗を流すこともあった。

しかし、コロナ禍の影響で状況は一変。「黙浴」が呼び掛けられ、人数制限や会話NGが徹底された。いくつかの店舗では、3密回避のための1人用個室まで登場し、サウナの魅力が失われつつある。コロナの影響で、サウナまでおひとり様の時代か…。五輪期間中は、体格で勝てない訪日外国人と我慢比べをしたかったが、それも夢で終わりそうだ。大会組織委員会の森喜朗会長の問題発言が物議を醸す中、日々の小さな幸せが、今では大きな幸せだったと切に感じる。【柔道担当 峯岸佑樹】

五輪マークと国立競技場(2020年3月撮影)
五輪マークと国立競技場(2020年3月撮影)