オリンピックの開催直前には、各競技の順位予想や代表選手のコンディションなどがスポーツ面を埋める。しかし、ご存じの通りゴルフに関してはその通りではない。112年ぶりにオリンピックに競技復帰するにも関わらず、ニュースになるのは「出場選手辞退」の話題ばかりだ。

 個人的には、せっかくの機会なのだから、もう少しポジティブな話題が増えてほしいと思う。自分の関わるスポーツが、ネガティブな話題ばかりではなんとも寂しい。

 そこでふと思った。各国ではこの「ゴルフのオリンピック復帰」や「代表選手の辞退」はどんなふうにとらえられているのだろうか。

日本代表としてリオ五輪に出場する池田勇太(右端)
日本代表としてリオ五輪に出場する池田勇太(右端)

●ゴルフ最先進国、アメリカ人はやっぱり合理的?

 まずは世界最高峰ツアーの開催国であるアメリカ。あるPGAツアーのコーチが言及したのはやはり、プロの出場辞退についてだった。

「プロが出ないのは当然じゃないかな。逆にプロが出る理由は何だい? 世界最高のプレーが見たいならメジャー(大会)の会場にくれば、いつだって彼らは最高のパフォーマンスを見せてくれるよ」

 さらには出場する選手について、こんな意見も。

「出場選手をアマチュアに限ればいいんだ。各国でオープンな予選を行ってね。“ゴルフを世界中に広める”っていう目的なら、こっちの方がよっぽどゴルファーに寄り添っていると思うよ」

 確かに、オリンピックを“誰でも目指すことができる、世界最高峰のアマチュア大会”という位置づけにすれば、メジャー大会との差別化も図れ、応援にも熱が入りそうだ。

●ゴルフ発展途上の中国でも注目度は高い

 近年、若手のプロが育ってきて、日本ツアーなどにも選手が出場している中国。この国のゴルフ関係者は、オリンピックに“ある事”を期待しているという。

「中国でもゴルフが徐々に浸透してきて、最近ではテレビでよくトップ選手の試合が見ることができます。オリンピックは“国を代表する”という要素にみんな魅力を感じています。だからこそ、いちゴルファーとして、各国の選手が辞退したのは残念でした。これを機にもっと国内のゴルフ熱が高くなればいいなと思っています」

 近年、中国国内ではゴルフへの風当たりが強いようで、多くのゴルフ場が閉鎖に追い込まれたり、プレーへの規制があるとも聞く。オリンピックの競技復帰が、プレー環境の改善につながればという願いもあるようだ。

●プロのゴルフは“仕事”である

 出場辞退に関して、別の声も聞くことができた。

「彼らがあれだけ高いパフォーマンスを出すために、どれだけの投資をしているか、もう少し考えるべきだ」

 ヨーロッパのトッププロの関係者はこう語った。

 以前、「PGAのトッププロはチームで戦っている」という内容を紹介した。1人のプレーヤーに多くのスタッフがつき、最高のパフォーマンスが出るよう支える。技術面はもちろん、食事や移動の面などでも細心の注意を払っている。トッププロは試合で高いパフォーマンスを出すために、移動でプライベートジェットを使う。毎週のように世界各地を飛び回るトッププロにとって移動はコンディションに影響を与えるとても大事な要素だ。 実際に全英オープンでも会場のロイヤルトルーンGCに近いプレスストウィック空港には多くのプライベートジェットが駐機されていた。

 先述の関係者のコメントは、そういった背景から生まれた発言だ。

「誤解を恐れず言うけど、僕ら(トッププロとその関係者)はプロなんだから、報酬が伴わないオファーっていうのはなんか違うんじゃないかと思う。それは金もうけがしたいとかということではない。移動だってコンディション調整だって、多くの時間とお金がかかっていることを理解してほしい」

 どんな試合でも出るからには、最高のパフォーマンスを出さなくてはならない。国の名誉がかかった試合ならなおさらという思いもあるようだ。

全英オープン時、プレストウィック空港にはプライベートジェットがずらり
全英オープン時、プレストウィック空港にはプライベートジェットがずらり

●セント・アンドリュースのベテランキャディが語った

 その名誉について、ゴルフ発祥の地、スコットランドのセント・アンドリュースでバッグを担ぐキャディがこんなことを言っていた。

「オリンピックが競技に復帰することにあまり興味はないよ。ツアーに新設の大会が1つ増えたのと同じ感覚かな。確かにオリンピック自体は伝統と権威のある大会で、そこに名誉が伴う。だけど、ゴルフは100年以上も行われていなかったわけだから、ほかの競技のそれとはまったく違うと思うんだ」

 彼の言葉を聞いて考えた。今回の出場辞退が相次いだことで、しばし取りざたされる“名誉”とは何か。

 治安の問題やジカ熱による健康被害、スケジュールの問題など要因はいくつかあるが、おそらくそれがオリンピックではなく全英オープンだったとしたら、選手たちは辞退しないはずだ。賞金が出なくても、多少のリスクがあっても彼らは例年と同じように出場するだろう。それは全英オープンがゴルファーにとって、歴史があり物語のある“名誉”ある大会だからだ。

 “名誉”というのは与えられるものではなく、長い時間をかけて醸成されていくものではないだろうか。

今回のオリンピックがゴルフにとってその1歩目になるよう、素晴らしい大会になることを願わずにはいられない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)