ゴルフはミスをするスポーツだ。むろんそれは世界ランク1位、さらに熱い戦いが繰り広げられている最中のフェデックスカップ・プレーオフで年間王者を目指すジェイソン・デイにも当てはまる。

 どんなスポーツでも「気持ちの切り替えが大事」などと言うが、ゴルフの場合、これができるかできないかがスコアを大きく左右する。特に高額な賞金がかかったPGAツアー、その中でも(年間王者になると)10億円あまりの賞金を手にできるプレーオフで、“気持ちの切り替え”を行うのは容易なことではない。

 試しに自宅のパターマットで、「これが決まれば10億円」だと思って打ってみてほしい。少しだけ彼らの気持ちに近づけるはずだ。

ジェイソン・デイ
ジェイソン・デイ

●世界のトップが取り組む気持ちの切り替え方


 そんなプレッシャーのかかるフェデックスカップ・プレーオフで、昨季2勝を挙げたジェイソン・デイは2015年ラグビーワールドカップで五郎丸選手が行ったことで知名度が上がった「ルーティン」に関するメンタルトレーニングを行い成果を上げている。

 デイのメンタルトレーナーのヘンリー・ボルトンを招いて主催したレッスンイベントで、ボルトンはデイのメンタルトレーニング導入前後の興味深いデータを示した。

「2013年の世界ランク37位のころのデイは約1・5メートルのパッティングを年間31回失敗していたが、2014年に私とメンタルトレーニングを始めてからミスを年間5回に激減することに成功した」

 気持ちや思考の影響が大きく影響するショートパットをメンタルトレーニングの導入によって劇的に改善させることで、デイは世界ランク1位の座まで登りつめたのだ。


●右脳優位な状態を作り上げることが大事


 一般的に左脳は物事を考える時によく使われ、右脳は直感的な動きの時に優位になるとされる。ヘンリー・ボルトンの調査結果によると左脳では1秒間に40個の情報の発信・処理を行うが、右脳は1秒間に1100万個もの処理が可能だという。集中力が極限まで高められている状態とは、右脳が優位となり考え事をしていない「無心」の状態になるというのだ。

 デイはボルトンとともにショットやパッティングをする際に右脳が優位な状態になるよう、「フォーカスバンド」と呼ばれる機器を使ったメンタルトレーニングを行っている。ショットやパッティングを行った際に右脳を使っていたか、左脳を使っていたか可視化することができる機器だ。この機器を使用しながらトレーニングすることで脳をコントロールする術を身につけたという。ヘンリー・ボルトンの来日レッスンイベントの際に、私も脳の状態を計測してみたが、常に左脳優位で右脳に切り替えることができなかった。


●ルーティンで右脳優位の状態を作る


 ルーティンというとその行動に目が行きがちだが、その動き自体よりも大事なことがある。決まった動作をきっかけとして、脳のスイッチを集中状態(右脳優位)に切り替えることが本当の目的なのだ。

 デイはアドレスの前に目標に正対した段階で薄目でターゲットを見て、球筋をイメージする。そこで左脳から右脳にスイッチを切り替え、その右脳状態をキープしたままアドレスに入り、スイングを行う。デイはショットの前のルーティンを確立することで、意図的に右脳優位の状態にし、極限の集中力を自ら生み出しているのだ。同じようにゴルフ史上最高のプレーヤーと称される帝王ジャック・ニクラウスも球筋をイメージするルーティンを行っていた。きっとニクラウスも右脳優位の状態でプレーをしていたことだろう。

ヘンリー・ボルトン氏(左)と筆者
ヘンリー・ボルトン氏(左)と筆者

●ルーティンに必要なイメージの力


「ルーティンを確立して毎ショットそれ通りに行っているのに、パフォーマンスが向上しないんです。むしろ、ルーティンを行わない練習場の方がうまくいく」

 こんな相談をアマチュアから受けたことがある。

「ルーティン中に何か考え事はしていませんか?」

 そう聞くと、彼はこう言った。

「そりゃ考えていますよ。アドレスに入ってからのルーティンを間違わないように、右足で方向を合わせてアドレスし、少し右に体重をかけて、目標を見ながら右手でフェースをセットして…」

 これでは左脳がフル回転の状態だ。右脳はほとんど働かない。ルーティン動作は考えなくても無意識にできるように習慣化しなければいけない。

 アマチュアの人はまず、右脳を働かせるためにショットやパッティングの際に目標や球筋のイメージを持ってみてほしい。ボールを投げる時のように目標物と球の軌道をイメージすることで右脳が働き、体がスムーズに動くことを実感できる。あとは、構えてからすぐに打つこと。構えている時間が長いと、考え事があふれてくるばかりか身体も固まってしまうからだ。

 ちなみにヘンリー・ボルトンのレッスンイベントに参加した4歳のジュニアの脳の状態を計測したところ、何球打っても右脳状態のままだった。

 ボルトンは、教えることは何もないと首をすくめて驚いていた。

 デイと4歳児の脳の状態が同じとは! その場にいた全員が4歳の女の子を羨望(せんぼう)のまなざしで見つめていたのは言うまでもない。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)