驚異的な肉体改造で飛距離を大幅に伸ばし、ゴルフ界で最も注目を集めているブライソン・デシャンボー(27=米国)が、また常識外れの発言をして話題を集めている。


デシャンボーもよく使用していたという練習器具
デシャンボーもよく使用していたという練習器具

今年最後のメジャートーナメント、マスターズ(11月12~15日)に備えるために、10月初旬に出場したシュライナーズ・ホスピタル・フォー・チルドレン・オープン以降の4週間、試合を欠場すると発表した。しかも、ただの調整ではない。「気が狂ったようにトレーニングをし、マスターズまでに、あと10キロ体重を増やしたい」という。

デシャンボーのSNSには「215mph(96m/s)への旅が始まる」と記されており、肉体改造と48インチのドライバーをテストし、更に飛距離を伸ばしてマスターズに臨むのだという。一流のドラコン選手でボールスピードが225mph(100m/s)くらいなので、ドラコン選手並みの400ヤード超えの飛距離を目指しているということになる。


■ドラコン選手並みの飛距離目指す


実際、デシャンボーのSNSでは「初めてキャリーで400ヤードを超えた。48インチドライバーではないのに。」という文言とともに、403ヤードのキャリーと211mphのデータ画像がアップされていた。48インチドライバーを使用すれば、450ヤードのドライバーショットも現実になるかもしれない。

陸上や格闘技のように、大事な試合の前に試合に出ず、練習や調整に励むという競技はあると思う。しかし、大事な試合の前に肉体改造に取り組むという話はあまり聞いたことがない。若いルーキーが、体力がついて体が大きくなるということはあっても、第一線で活躍する選手が意図的に筋肉をつけ、体重を増やすということはほとんどないだろう。普通はシーズンオフに時間をかけて行うものであり、試合前の4週間という短期間で行うのは異例だ。

特にゴルフでは技術が重視されるため、大事な試合の前には試合に出ながら技術や感覚を調整するという考え方が主流だ。デシャンボーの考えは、ゴルフ界の常識から外れたものだといえるだろう。しかし、デシャンボーの常識外れの行動は今に始まったことではない。本人やコーチ陣には勝算があるに違いない。


■コーチが語るデシャンボーの強み


デシャンボーは、コーチのマイク・シャイと「ザ・ゴルフィングマシーン」の理論をもとにスイングを作り上げた。「ザ・ゴルフィングマシーン」とは、ホーマー・ケリーが約50年前に書いたゴルフ理論書だ。物理学や幾何学をもとにゴルフスイングを分析していて、超難解な理論とされている。


デシャンボーの腕の使い方について説明するシャイ
デシャンボーの腕の使い方について説明するシャイ

シャイはデシャンボーが12歳の頃からコーチをしているが、スイング理論以外にもゴルフに対する考え方や姿勢に大きな影響を与えた。シャイは常にデシャンボーに「自分の行動に責任を持ち、何が自分にとってベストな方法なのか考えること」を求めたという。

こうした物事の本質を考え、常識の枠を取り払って最善な方法を選択するという教えは、現在のデシャンボーの思考法に大きな影響を与えてきた。シャイ自身も常に新しいものを取り入れ、生徒を導くためにベストな選択をしてきた。彼の本拠地には高価なスイング矯正マシーンや最新鋭の機器が多数設置されており、生徒にスイング理論を習得してもらうためにベストな環境を提供している。


■パッションが成功への鍵


シャイはデシャンボーが参加したUSGAイベントでは、ほぼ全ての試合でキャディーを務めてきたという。キャディーをしていない小さな試合の後、デシャンボーは全てのラウンドを図表化し、深夜であろうと時間を問わずシャイのもとに電話をかけ、1つ1つのショットについて話し合ったそうだ。シャイは、そのようなデシャンボーの熱情、そして競争心が最大の強みだという。

「パッションと競争心にかけてブライソンの右に出る者はいません。彼の持つパッション、絶対倒してやる、ゲームを制してみせるという競争心は、私は今まで他の誰からも見た事がありません。彼のパッションは絶対に取り上げないようにしてきました。なぜなら、パッションが成功への鍵だからです」


スイングを習得するため、ロボゴルフプロを導入している
スイングを習得するため、ロボゴルフプロを導入している

デシャンボーの情熱と競争心による勝利への渇望が、ゴルフ界の常識の枠を超えた行動につながっているのだろう。デシャンボーには、マスターズを制するための仮説が既にできあがっているに違いない。後は、万全の準備を行い、その仮説の検証を行うだけなのだ。

デシャンボーのゴルフの取り組み方が正しいのか、正しくないのか。それはマスターズという舞台で、彼が自らのプレーで証明することだろう。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/