例年4月に開催されるメジャートーナメント「マスターズ」が、新型コロナウイルスの影響により今週11月12日木曜日にオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(ジョージア州オーガスタ)で開催される。異例の秋開催のマスターズで関心を集めているのが、ブライソン・デシャンボー(27=米国)だ。
デシャンボーは全米オープンで圧勝し、米国のブックメーカーの優勝予想のオッズ(払い戻し倍率)では1位となっている。米国ゴルフダイジェストのトップ50コーチで、ジョージア州に拠点を置くアンドリュー・ライスは、デシャンボーがマスターズで優勝争いに加わる可能性が高いと語っている。
「ブライソンが今年行った数々の変化は、マスターズに照準を合わせたものだと思っています。彼が全米オープン最終日に見せたプレーは、芸術作品のようでした。あのようなプレーを再現できれば、今年のマスターズにおいてブライソンは誰よりも有利な状況でしょう。オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブにおいて、突出した飛距離により彼は大きなアドバンテージを得ると思います。彼は信じられないほど飛距離アップをしましたが、それだけではなく、メジャートーナメントで戦うために必要なすべてのスキルを持っています。以上を考慮すると、ブライソンはマスターズで日曜日に優勝争いを展開するでしょう」
■4週間欠場して異例の調整
デシャンボーのマスターズに向けた独自の調整法も話題になっている。デシャンボーは10月上旬に開催されたシュライナーズ・ホスピタル・フォー・チルドレン・オープン以降、4週間に渡って試合に出場せずに、マスターズ対策の調整に入った。通常、メジャートーナメントの前は試合勘を維持しながら技術調整するため数試合に出るものだが、さらなる肉体改造による体重増と、48インチの長尺ドライバーの練習に取り組んでいたという。その成果もあり、先日、48インチドライバーではなく、通常の長さのドライバーで練習中にキャリーで400ヤードを超えたとSNSで報告していた。48インチドライバーを使いこなすことができれば、安定して400ヤードショットを放ち、最長450ヤード飛ばすことも可能かもしれない。
マスターズには私も2度ほど足を運んだことがあるが、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブはアップダウンが激しく、高い木々にセパレートされている。歴代優勝者は飛ばし屋より、正確なアイアンショットを武器としている選手が多い傾向もあり、コース攻略には飛距離よりも正確性が重要だと感じていた。
しかし、デシャンボーは今回マスターズ対策として、試合に出ずに飛距離アップに専念している。理詰めに物を考えるデシャンボーが、飛距離にこだわる理由とはどのようなものなのだろうか。
■異次元の400ヤードから見える景色
デシャンボーがマスターズを攻略するために、なぜそこまで飛距離を伸ばすことにこだわるのか気になり、改めてオーガスタ・ナショナルGCのコースレイアウトを眺めてみた。そうすると、400ヤード地点が広くなっているホールがあることに気づいた。300ヤード前後のキャリーだとバンカーや林などによって落としどころが限られるが、400ヤード地点にボールを運べば広いエリアが出現するのだ。デシャンボーが本当に毎ホール400ヤード飛ばすことができれば、バンカーや木などの障害物は全く意味をなさなくなる。
例えば、17番ホール、440ヤード・パー4は、400ヤード飛ばせば左右の林を抜け、平らなフェアウェイが広がる。残り40ヤードのフェアウェイから打つことができれば、十分バーディーを狙える距離になる。フォローの風が吹けばガードバンカーまで到達する可能性すらある。
実際に、PGAツアーラジオ「インサイドロープの」のホスト、カール・ポールソンによると、最近デシャンボーが1998年のマスターズチャンピオン、サンディ・ライルと行った練習ラウンドで、17番ホールのセカンドショットをサンドウェッジで打っていたという(48インチドライバーを使用していたかは不明)。
その他のパー4においても、どのホールも2打目以降はショートアイアンとウェッジで十分対応できるだけではなく、短いホールでは1オンを狙うことも可能だ。3番ホール・350ヤードは練習ラウンドでは3番ウッドでグリーンをオーバーしたという。
さらに、飛距離アップの恩恵をパー5でも受けることができる。15番、530ヤード・パー5は、300ヤード前後の距離では左のせり出した木々が気になるが、400ヤードを超えるショットを放てば、左の木を超えて残り150ヤード以内となり、十分イーグルを狙える距離となる。練習ラウンドでは9番アイアンでセカンドショットを打っていたという。オーガスタ・ナショナルGCのパー5はすべて500ヤード台の距離なので、400ヤードヒッターにとっては楽に2オンできる距離になる。実際に、2番ホール575ヤードは8番アイアン、8番ホール・570ヤードは7番アイアン、13番ホール・510ヤードは3番ウッドでティーショットを放ち、7番アイアンでセカンドショットを打ったという。一人だけパー72ではなく、パー68のコースでプレーするような状態になる。
400ヤードを超えるビッグドライブに風がどのように影響するのか、また、しっかりフェアウェイをとらえられるのかは未知数だが、距離だけを見れば、デシャンボーだけがレディースティーでラウンドするようなものだ。スタート前からハンディを5打もらうような、とても大きなアドバンテージになる。オーガスタ・ナショナルGCは2002年にトム・ファジオによる監修で全長を約300ヤード伸ばし、年々距離が長くなっているが、主催者側が想定する以上の飛距離でコースを攻略しようとしているのだ。
果たして、さらなる進化を遂げたデシャンボーが、オーガスタにすむという魔女を科学の力と鍛え抜かれた体でねじ伏せるのか、それとも魔力に跳ね返されるのか。マスターズの開幕が楽しみでならない。
(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/




