東京オリンピック(五輪)の女子ゴルフで、稲見萌寧(22=都築電気)とプレーオフで銀メダルを争ったリディア・コ(24=ニュージーランド)の振る舞いは、見ていてすがすがしかった。プレーオフが決まった後、対戦相手である稲見に自分から話し掛け、稲見がバーディーパットを外すと自分のことのように悔しがった。敗れた後も稲見とハグをかわし、勝利をたたえた。
コはアマチュア時代に世界ランキングで130週連続1位となり、全米アマ選手権優勝。12年には15歳4カ月の史上最年少で米ツアーを制し、16歳でプロ転向。米ツアーなどでメジャー2勝を含む17勝を記録している女子ゴルフ界のトップ選手の1人だ。ゴルフ競技が五輪に復帰した前回のリオデジャネイロ五輪では、銀メダルを獲得した。
五輪という舞台は、一流アスリートの技術や勝ち方以外にも、彼女のような振る舞いを見て、その人間性に思いをはせることができるという意味でも価値があると思う。そんなコの振る舞いを、プロゴルファーで沖縄大でスポーツ心理学を研究する石原端子准教授は「彼女にとっては、どういうプロゴルファーになりたいかが大事で、どう勝つかより、その先にある自分の価値を意識しているんだと思います」と解説した。
韓国・ソウル生まれのコは6歳のときに家族とともにニュージーランドに移住した。15年3月からは高麗大オンライン講座で心理学を専攻しているという。
石原氏は「スポーツというものは勝ち負けなので、メンタルトレーニング、どういう状況になったら自分らしくプレーして勝てるかを考えると思います。あの(稲見の)バーディーパットを“入れ”と思う方が、自分の心の持ちようにとっていいと思えば、応援すればいいのです」という。
石原氏自身も現役時代にプレーオフを戦った際には「相手のパットが外れればいいと思ったことは1度もない」という。「外せと思う自分がいやだったし、入れてこいよ、自分も入れてやるからと思う方が、気持ち的にも前向きになれた」と話した。
国内ツアーで取材をして、同じような光景に出合ったことがある。19年のツアー選手権リコー杯。賞金女王争いで2位の渋野日向子が、最終日に同じ組で回る選手のバーディーパットが外れたときに、コと同じように悔しそうな表情をしていた。石原氏は「日本では宮里藍さんが同じように同組で回る選手に気遣いをしていた。自分はどうあるべきかを意識できる選手が強い選手になったとき、それがロールモデルになって後に続く選手に引き継がれていくことが理想」と話す。
プレーヤーとしても、人間的にも宮里を尊敬し目標とする渋野は、そういった宮里の振る舞いを見て、自然とそういった姿勢が身についたのだろう。コのような人間的にもすばらしい選手のゴルファーとしての在り方が、五輪を通じて日本だけでなく世界の若い選手たちに引き継がれていけば、東京五輪の開催価値も少しは上がるのではないかと思う。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)


