本当の戦いはこれからだ。18年世界選手権78キロ超級金メダルの朝比奈沙羅(22=パーク24)は決勝で、18年アジア大会同金メダルの素根輝(そね・あきら、18=環太平洋大)に敗れた。延長に突入し、9分5秒の激闘となったが最後は力尽きた。

規定の4分間は素根の左釣り手を封じたが、延長に入ると組み手ばかり意識し過ぎて技出しが遅くなった。最後は素根の大内刈りで腹ばいになり、3つ目の指導をもらい勝負あり。素根に対して5連敗となった朝比奈は「負けは負け。良いところは伸ばして、苦手はつぶしていかないといけない…。東京五輪まで時間もない。死ぬ気でやってもやられるため、(次は)殺す気で勝負しないといけない」と必死に前を向き、気持ちを奮い立たせた。

この日は特別だった。麻酔医の父と歯科医の母を持ち、幼少期からの夢が五輪金メダルと医師になることだった。東京・渋谷教育渋谷高時代から在宅人工呼吸管理患者らとボランティア活動「プロジェクト・パピー」を通じて触れ合ってきた。毎夏のキャンプで一緒にバーベキューをするなど交流を深め、昨年に続き、今大会も患者やその家族を招待した。「柔道家として少しでも元気や勇気を届けたい」と、勝利を届ける覚悟で臨んだ。応援に駆けつけた田川晃夫さん(16)は「沙羅ちゃんの試合を見てパワーをもらった。いつもの優しい笑顔が、真剣な表情で格好良かった」と話していた。

大会後の強化委員会で、朝比奈と素根の2人が世界選手権代表に選出された。女子代表の増地監督は2人の序列について「ない」とした。東京五輪まであと1年3カ月。22歳の世界女王は「前だけを見て、悔いのないようにやるだけ」と自身に活を入れて、涙ながらに会場を後にした。【峯岸佑樹】