史上初のオリンピック(五輪)5連覇を目指す女子57キロ級の伊調馨(35=ALSOK)が決勝で16年リオデジャネイロ五輪金メダリストの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)に敗れ、4年ぶり6度目の優勝を逃した。昨年の全日本選手権に続く優勝なら東京五輪代表がかかる世界選手権(9月、カザフスタン)代表に決まっていた。今後は7月6日に行われるプレーオフで川井と代表権を争う最終選考に臨む。

互いを知り尽くす2人。第1ピリオド(P)はマット中央で頭をつけた攻防が続く。川井に1ポイントだけ許し、0-1で第2Pへ突入。開始早々、川井にタックルされ、足首をとられる。4ポイントをとられ、一気に0-5と差をつけられた。残り1分半。伊調は川井のタックルを受けるもすぐバックとって2ポイント返す。残り1分で3ポイント差。残り30秒、場外に投げて1点とり2点差に縮める。そして残り2秒51で川井が反則をとられて1点差。しかし、最後は逃げ切られた。

昨年10月に復帰後、上昇カーブを描いているかに見えた競技人生の最終章は、順風とは程遠かった。昨年12月の全日本選手権、決勝では川井を土壇場の逆転劇で下し、東京五輪の代表争いでリードを奪った。五輪4連覇の底力と勝負強さを背骨に、19年はさらに状態を上げてくる期待があった。ただ、それを年齢が許してくれなかった。

指導する田南部コーチは「けがの回復が遅い。小さなけがは、うまく付き合って休みを入れながらやるしかない」と日々を明かす。練習の虫。技術習得に楽しみを見いだすと、時間が長くなる。「調子良いとやるので、そこを抑えないと行けない。それは彼女のストレスになっている」。心身でうまくブレーキをかけることが、新たな課題となった。4月のアジア選手権では準決勝で北朝鮮選手に敗れたが、黒星以上に痛かったのは初戦の2回戦で折った前歯。亜脱臼の診断を受けて、休養を余儀なくされた。練習再開後もマウスピースを着用して制約がある中で、調整をするしかなかった。

「練習と試合でギャップがある。練習通りにというのは本当に難しいと実感できるし、そこを乗り越えないと」。求めるレベルが高いからこそジレンマは募るだろうが、今大会ではギリギリの戦いを強いられていた。度々言葉にするのは「自分は挑戦者」という覚悟。思うようにいかない現実に対しても、挑戦者であることを受け止める強さが35歳のベテランにはある。山あり谷ありの険しい道を、集大成の東京五輪というゴールに向かって進んでいくしかない。