新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言が25日に全面解除された。再び変化する生活への対応には「食」の安定が重要。競泳瀬戸大也、フィギュアスケート羽生結弦らアスリートの栄養面を支える「味の素ビクトリープロジェクト(VP)」の栗原秀文シニアディレクター(SD=44)と管理栄養士の鈴木晴香さん(30)に、新たな生活様式を乗り越えるための「勝ち飯」を聞いた。日刊スポーツ読者へ26日から1週間分の特別レシピも提供してもらうことになった。

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長引いた在宅生活で「おうち太り」…。そんな悩みを抱える人たちが緊急事態宣言の全面解除を迎えるに当たり、栄養指導のプロ集団を直撃した。味の素VPの栗原SDは即答する。「アスリート向けのメニューは、胃腸へのダメージを抑えるため脂質を抑えています。量さえ調節すれば、より良い栄養素を効率良く取れます」と活用を勧めた。

管理栄養士の鈴木さんも2つのポイントを挙げる。

<1>低脂質、高タンパク 「(解除後も、もう少し継続されそうな)休校やテレワークなど在宅中は消費エネルギーが減るので、摂取エネルギーも減らしてください。特に『脂質』。豚肉ならバラよりモモ、鶏肉ならササミなど脂身の少ない部位を選んでもらえれば。鶏モモも皮を取り除いて調理したり」。

<2>ビタミンACE 「免疫力向上に大切な栄養素はビタミンA、C、E(ACE=エース)の摂取です。ニンジン、ホウレン草やブロッコリーなど緑黄色野菜に多く含まれています」。

この条件を満たすものは? 2人は「汁物」と声をそろえる。「副菜を1つ追加するのは大変ですが、具だくさんの汁物なら肉や魚(タンパク質)もビタミンACEも手軽に。油も使いません。選手に提供する際は必ず汁物、特に鍋を用意しています」と鈴木さん。栗原SDも「冷蔵庫に残った野菜をフル活用してもらえれば。お子さんと一緒に作れるので、選手はコミュニケーションも楽しんでいるようです」と紹介した。

同社の「鍋キューブ」を使った「カラダコンディショニング野菜だし鍋(カラコン鍋)」は、試合1週間前から練習量を落とす瀬戸も、高難度ジャンプを跳ぶため体重を増やせない羽生も大好物。今の自粛生活に応用できる。「特に低脂質を意識する時期こそ汁物、鍋を勧めます」(鈴木さん)。野菜が苦手な人にも最適だ。「野菜をがっつり取るのって結構しんどい」と苦労していた羽生や「野菜を初めて食べたのは16歳」というバスケットボール富樫勇樹もVPのサポートを受けて改善。栗原SDが「汁物、鍋は彼らがビタミン類を摂取する上で大事なツール」と明かすように今や欠かせない「勝ち飯」だ。

再び変わる生活にも対応できる。14日に39県で緊急事態宣言が解除され、25日には残る首都圏なども全面解除された。また通勤、通学が始まる-。生活は慌ただしくなるが、まだ遅くない。鈴木さんの「朝食が最も大事。食べることで体温が上がり、体の活動スイッチが入ってエネルギー消費量が増えます」という言葉を信じよう。リズムが乱れて朝昼兼用になっていた人も、今から朝に汁物を。夏場にも向けても、栗原SDは「胃や腸も筋肉。運動前のウオーミングアップと同じで温めて動かしてあげることが大事」と指南した。

オンライン会議システムを活用した「Zoom飲み」だけでなく、夜の会食も増えてくる今後。「体にとってはマイナス面もある」が「日常の食生活を整えておけば『心の栄養』として週1、2回あっても大崩れしません。お酒でもケーキでもステーキでも、心のバランスを整えるためなら、たまにはOKです」と我慢し過ぎない姿勢も求め、満面の笑みで親指を立てた。

あとは量を調整するだけだ。指針は体重。鈴木さんは「選手には細かい数値を出してレシピを提案しますが、気分や体調に応じて変わりますし、あくまで推定値、計算値です。最終的には体重。例えば瀬戸選手は練習状況や体重の増減を見ながら、奥様(元飛び込み選手の優佳さん)がアレンジしています」と柔軟性を持たせたサポートをする。

卓球の伊藤美誠も「おいしくて、おなかいっぱいになるのに太らない」と話す「勝ち飯」は理想的。栗原SDは「おなかいっぱいと言っても、彼女の練習量は相当ハード。頭も体もフルで動かしている」とフォローしたが、ボリュームさえ気をつければ「おうち太り」解消には有効だ。鈴木さんが日刊スポーツ読者へ7日連続で提供してくれる特別レシピを食べて、新型コロナ禍の新たな生活変化を乗り越えよう。【木下淳】

◆栗原秀文(くりはら・ひでふみ)1976年(昭51)5月2日、東京都板橋区生まれ。小学校から立大を卒業するまで野球に打ち込む。99年、味の素入社。営業職や「アミノバイタル」事業部をへて04年からVPに携わる。プロ野球選手を目指した大学時代、コンディショニングに失敗した悔しさが選手を支える原動力になり、VPのエンジンと呼ばれる存在に。瀬戸、羽生、伊藤、富樫や競泳の日本代表選手団など担当。

◆鈴木晴香(すずき・はるか)1990年(平2)4月15日、愛知県名古屋市生まれ。高校時代は競泳選手。大学院でスポーツ栄養学を学び、15年に味の素入社。VPの全ディレクターと組む管理栄養士として、五輪は翌16年のリオデジャネイロ大会から選手を支える。最重要業務は選手に提供する食事の献立作成。体重や体脂肪率などのデータを収集し、分析して栄養摂取の目標値を設定。勝利への「ストーリー」を描く。

◆味の素ビクトリープロジェクト(VP) 03年に日本オリンピック委員会(JOC)と共同で立ち上げた、日本選手団の食と栄養面の支援プロジェクト。10年からは味の素ナショナルトレーニングセンター内に「勝ち飯」食堂を開き、バランスの良い食事を選手に出している。16年リオ、18年平昌五輪では現地に栄養サポート施設「G-Road Station」を設置。VPのディレクター、調理スタッフと鈴木さんら管理栄養士が常駐して和軽食を提供した。

競泳、フィギュアスケート、バドミントン、バスケットボールの選手に個別指導。競泳、空手、ハンドボールなどの日本代表チームも支えている。普段は国内外を飛び回る栗原SDと鈴木さんも現在はテレワーク中心。「東京五輪が来夏へ延期となった中、どうVPを進化させていくか。オンラインで議論し、各自でも考える時間ができたと前向きにとらえています」と栗原SDは熱く語っている。