「世界の英雄が語るW杯」最終回は、元ウェールズ代表主将のガレス・トーマス氏(44)。ワールドカップ(W杯)に3度出場し、代表100キャップを誇る「レッド・ドラゴン」の大型WTBだ。99年英ウェールズ大会などをもとに日本大会を成功に導くための2つの提言を行った。

W杯日本大会の公式ボールを手にするガレス・トーマス氏(撮影・峯岸佑樹)
W杯日本大会の公式ボールを手にするガレス・トーマス氏(撮影・峯岸佑樹)

このほど来日したトーマス氏は、ウェールズ(世界ランク4位)の試合会場となる熊本市など全国11都市を訪問した。1週間滞在して定刻通りに視察が進み、礼儀正しい日本人の対応に感銘を受けた。「各都市によって文化や食事が異なり、ホスピタリティ精神が素晴らしい。W杯は間違いなく盛り上がるが、成功を収めるためには世界中の人々の心を動かす必要がある」。アジア初の大舞台が7カ月後に迫る日本のために、選手・ファン目線で2つの提言を行った。

(1)日本代表=アジア代表の意識 昨年11月の強豪イングランド戦などを見て、日本の戦力は「過去最強」と分析した。開催国として重圧や期待も高まるが、アジア最強の日本は「アジア代表の役割がある」と指摘。誇りと自信を持って、約45億人の代表として戦うことが重要と強調した。特に、元ウェールズ代表で“同僚”だったジョーンズ監督率いるロシアとの開幕戦が大切という。世界が注目する一戦に「これまでにない重圧と緊張を経験するだろうが、(目標の)8強を狙うなら、組織力をもとに勝ちきれ」と期待した。

(2)日本ファンも海外ファンとの交流を図る 世界中のラグビーファンが大会期間中、日本に集結する。過去の事例から開催国が勝利すると高揚感に包まれ、国民総生産(GNP)が上がるほどの効果があるとされ、多大な経済効果をもたらす。全12都市で開催されることもあり「東京、大阪だけでない地方の文化や歴史も知ってもらえる絶好チャンス」。言葉が話せなくても、ラグビーを通じて積極的に対話を図り「『次は観光で』『次は文化を学びに』など言ってもらえるようなおもてなしが、さらに海外ファンの心に響く」と伝えた。

ラグビーが盛んなウェールズにとって、W杯は「民族の誇りを表現する場」でもある。中世にイングランドに征服された歴史があり、唯一勝てたのがラグビーだった。「レッド・ドラゴン」の愛称で87年大会で過去最高の3位となり、その誇りは後世に伝承されている。しかし、01年6月に“事件”は起きた。サントリーとの親善試合で41-45と歴史的な敗北を喫した。「思い出したくもない試合だがこれがラグビー。ミラクルで何が起こるか分からない。日本も15年大会の時のように、再び、世界中の人を驚かせてほしい」。

01年6月、サントリー対ウェールズ ウェールズのヘンスンをタックルで倒すサントリー・山口(左)と斉藤
01年6月、サントリー対ウェールズ ウェールズのヘンスンをタックルで倒すサントリー・山口(左)と斉藤

トーマス氏は約9年前、同性愛者であることを公表した。理由を聞くと、こう答えた。「ラグビー選手の価値は正直であること」。44歳の英雄は、心からW杯日本大会の成功を祈っていた。【峯岸佑樹】

◆ガレス・トーマス 1974年7月25日、ウェールズ生まれ。94年にブリッジエンドでプロデビュー。WTB、FB、CTBのマルチプレーヤーとしてトゥールーズやクルセイダーズなどで活躍。代表100キャップ。11年10月に現役引退。現在はタレントや解説者として活動。191センチ。