沢木敬介氏(2017年8月7日撮影)
沢木敬介氏(2017年8月7日撮影)

日本が前半で勝負を決めた。スコットランドに快勝した日本のパフォーマンスを、前サントリー監督の沢木敬介氏(44)は絶賛した。先制トライは許したものの、前半のスタッツは一方的。ポゼッション(ボール保持率)テリトリー(地域獲得率)ともに相手を圧倒した。ミスのないハイレベルな試合で、日本が見せた強さ。最高のゲームプランと選手の遂行能力が、勝利を呼び込んだ。

   ◇   ◇   ◇

前半の日本はパーフェクトだった。ポゼッションは70%を超え、テリトリーも圧倒した。ほとんどの時間帯をスコットランド陣でボールをキープし続けた。ゲインメーター(獲得距離)は491メートル、パス118本と、数字の上でも圧倒。相手にラグビーをさせない一方的な内容だった。

日本vsスコットランドのスタッツ
日本vsスコットランドのスタッツ

前半、風下の日本はキックを使わず、徹底してパスでボールを保持した。3本のキックも、福岡のトライにつながったラファエレのキックパスなどいずれも有効なもの。速いテンポでボールをつなぎ、相手を追い込んだ。スロースターターのスコットランドに対し、積極的に攻めにでた。

先制トライは許したが、選手たちに焦りは感じられなかった。積み重ねてきたボーナスポイント(BP)が生きてきた。敗れても7点差以内ならBPを得て勝ち抜けとなる。7点リードされても、そのままなら1次リーグ突破。精神的には優位に戦えたはずだ。

ノックオンなどハンドリングエラーが少なかったことも、日本の攻勢を支えていた。強風のおかげでボールが乾き、滑らなくなったこともあった。つまらないミスが少ないことで試合は締まり、見ていても面白いゲームになった。

21-7で終えた前半で、勝負は決したといってもいい。初戦でアイルランドに敗れたとはいえ、2試合連続完封勝ちで勢いに乗ったスコットランドから最高の形で奪った3トライ。データの上からでも当然の点差で、前半だけみれば圧勝といってもいいだろう。

後半は、数字が逆に振れる。ポゼッションもテリトリーも相手を下回った。もっとも、力関係が離れていなければリードされているチームが攻勢に出るのは当たり前のこと。福岡がチームの4トライ目を奪った直後からは一方的に攻められたようにも見えたが、日本は巧みにコントロールしながら試合を進めていた。

素晴らしかったのは、戻りのディフェンス。リーチが率先して戻り、タックルを決めた。ここで生きたのは、日本が世界に誇るフィットネス。最後まで落ちない運動量で、次々とタックルを決めた。攻められているから当然だが、前半21しかなかったタックル数は後半101までになった。

日本対スコットランドの前後半別データ
日本対スコットランドの前後半別データ

7点差まで詰められて残り24分。ここでもBPが生きた。スコットランドに2トライ2ゴールで14点を奪われても総勝ち点で日本は上回る。3トライ以上を奪わないといけないスコットランドは焦る。逆に日本は15人が1つになって相手の攻撃を止め、結果的には危なげなく勝ちきった。

献身的なタックルでチームを引っ張ったリーチ、FWの核として前進を繰り返した堀江、もちろん松島と福岡…。勝利の立役者はいるが、MVPをあげろと言われれば、間違いなく「全員」と答える。大切なのはフィールド上の15人がゲームプランを理解し、共有して試合を進めること。1人でも中途半端なプレーをすれば、勝利はない。そういう意味でも、お手本といえる見事な試合だった。

日本対スコットランド SH田中史朗(右)(2019年10月13日撮影)
日本対スコットランド SH田中史朗(右)(2019年10月13日撮影)