お隣韓国での平昌五輪(ピョンチャン・オリンピック)は、2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向け「大会運営」の面でも、参考になる点が多かった。東京五輪組織委員会も知見を得るため「オブザーバープログラム」に110人が参加。ニッカン平昌取材班も輸送、ボランティア、喫煙問題など、肌で感じた課題や参考にすべき点をリポートする。


■マイナス15度のバス待ち

開会式会場へ向かう一本道はひどい渋滞
開会式会場へ向かう一本道はひどい渋滞

 総じて輸送面は、課題を残した。深夜帯の競技時間でも不評を買ったスキー・ジャンプでは観客輸送も負の連鎖を呼んだ。ノーマルヒル終了は午前0時20分も、1時間シャトルバスが来ず、屋根もない氷点下15度の吹きさらしで待った。韓国語対応のみのボランティアは、半べそで待機をお願いしていた。東京では競技時間のしわ寄せを運営現場に背負わせない配慮が必要だ。バス停の案内表示も少なく、ボランティアや運転手に英語が通じない。東京では輸送担当者の言語対策が課題となる。

 平昌大会では五輪レーンが敷かれたが、守らない車も多かった。通常30分のところ渋滞で1時間以上かかったケースも。東京では首都高に2車線区間が多いため、基本的に五輪レーンは敷かない方針。一方で、観客やボランティアは公共交通機関を利用して競技会場に行く必要がある。世界一の交通網があっても、案内がしっかりしていなければ宝の持ち腐れになる恐れもある。【三須一紀】


■日本より通信充実

 今や、海外での生活で欠かせないのが通信環境だ。スマートフォンが普及し、2017ユーキャン新語・流行語大賞には「インスタ映え」が選ばれた。平昌五輪でも会場内に仲間と写真撮影ができるスペースが設置されるなど、観客は撮影・投稿アプリ「インスタグラム」などSNSを通じて五輪の雰囲気を発信した。

 現地ではWi-Fi(ワイファイ)の充実ぶりが光った。メディアの立場から見れば、宿舎となるメディア村、競技会場、プレスルームで共通のIDがあり、1度登録すると常に通信できる環境にあった。移動のメディアバスにもWi-Fiが設置されており、情報発信に易しい環境だった。

 競技開催時に制限がかかり、持参したWi-Fiも使用できなかったことは不便に感じたが、それでも現在の日本に比べて通信環境は良かった。20年東京五輪に向けた整備は、最終的に日本の魅力発信につながっていくはずだ。【松本航】

Wi―Fi完備のメディアセンター
Wi―Fi完備のメディアセンター

■韓国語だけのメニュー

 オリンピックパーク内は食べ物持ち込み禁止。敷地内にはマクドナルドや食堂があるが、常に行列で食事にたどりつくまでが一苦労だった。各競技場内の売店はホットドッグなど、レンジでチンの軽食のみで味気なかった。市街地に出ればいいレストランはたくさんあったが、メニューが韓国語のみで、英語が通じないなど外国人に目を向けていない店が多かったように思う。食事も五輪を楽しむ要素の1つ。20年に向けては新鮮で多種多様な食を楽しめる環境作り、施設内外で多言語のメニュー普及に力を入れてほしい。【高場泉穂】

選手村に設置されたマックカフェ
選手村に設置されたマックカフェ

■簡易トイレが劣悪

 ジャンプ会場などに設置されている簡易トイレは劣悪だった。文化の違いもあり、紙の捨て方など国によって違いがあるのは分かるが、悪臭がすごく、ほとんどが水が出ないトイレだった。観客は使うにも汚すぎるため、我慢している人も見受けられた。トイレはその家の顔とも言われる。東京五輪は、世界に衛生面でもアピールできる。日本は公園などの公衆トイレも清潔感がある。開催中は、簡易トイレの設置が多くなるだろうが、掃除などを行き届かせ、そこに温水洗浄便座をつける。衛生面でもクリーンな五輪を目指せるはずだ。【松末守司】


■ボランティアに言葉の壁

 平昌五輪では開幕前の2月2日に、宿舎でお湯が出なかったり、移動バスに乗るまでに長時間待たされるなど勤務環境が悪いからと、2000人超のボランティアが大会を離れたという衝撃的なニュースで注目された。

 取材する中で、多く聞かれたのは言葉の壁だ。観客との間はもちろん、ボランティアの多くを占める韓国人と、会話が出来ない他国のボランティアとのコミュニケーションが行き届かない面があったという。東京五輪のボランティアの応募は9月中旬から始まるが、平昌でボランティアをした人からは「海外から来るボランティアは、日本語が一定程度、出来ることを条件に選んだ方がいいのでは?」との声も出た。

 また平昌五輪には、中国からの団体客も多かったが、中国語の出来るボランティアが少なく、対応に苦慮したという。中国人観光客が多い現状を見ても、東京五輪での対策は必須となるだろう。【村上幸将】


■喫煙所以外でポイ捨て

 もはや見慣れた光景といってもいい。平昌五輪では会場内は禁煙で敷地内に喫煙所を設置した。しかし喫煙所以外でたばこを吸う人は多く、吸い殻が捨てられることもある。

 14年ソチ五輪、16年リオ五輪も同じだった。リオ五輪では陸上競技場の屋根がないコンコースで、たばこを吸う人の輪ができていたこともある。

 海外では屋内禁煙がスタンダードで、建物の中でたばこを吸う人はいない。ただ、だからこそ建物の外に1歩出れば、喫煙OKと考える人がいる。日本の感覚で「喫煙所を使うだろう」と楽観的に考えるのは危険。もちろん喫煙所で吸わない人が悪いのだが「分煙」はほぼ達成されていないのが現実だ。

 東京五輪も会場内は禁煙、敷地内に喫煙所を置く。わかりやすい表示と場所、設置数など多くの労力が必要になるだろう。それを惜しめば、無法地帯になってもおかしくない。【益田一弘】


<2020年東京では開閉会式前後に休日案>

 東京大会組織委員会でも、平昌大会の運営面には注視していた。特に輸送面。武藤敏郎事務総長は「バスは不足などで問題が起きないように効率的な運行計画で対応したい」とスムーズな運行を目指している。慢性的な渋滞を懸念して開閉会式前後を休日にする計画も進んでいる。「すばらしい大会だった」と平昌大会を評価しつつ「課題は、いろいろあった。しっかり学び、しっかりやりたい」と、反省を生かす決意を口にした。