若きなでしこが世界初の偉業に挑む。サッカー女子W杯フランス大会は7日に開幕する。女子日本代表「なでしこジャパン」のDF宮川麻都(21=日テレ)とDF南萌華(20=浦和)は14年U-17W杯コスタリカ大会、18年U-20W杯フランス大会で優勝を経験。W杯も頂点に立てば、国際サッカー連盟(FIFA)主催の女子国際大会全てを制覇する。さらに20年東京五輪で日本に初の金メダルをもたらせば、個人4冠を達成。そんな夢の記録に挑戦する2人がW杯、五輪への思いを語った。【取材・構成=松尾幸之介】


個人3冠を目指すW杯へ意気込むDF宮川(左)とDF南(撮影・松尾幸之介)
個人3冠を目指すW杯へ意気込むDF宮川(左)とDF南(撮影・松尾幸之介)

なでしこ期待の若きホープ2人がW杯、そして東京五輪を連覇しての偉業達成を狙っている。まずは個人3冠目もかかるW杯が7日に開幕する。宮川と南にとっては初の大舞台。10日の1次リーグ初戦はアルゼンチンが相手だ。

宮川 W杯は小さい頃から目標にしていた場所。自覚と責任を持って戦いたい。自分が(3冠を狙う)そういう立場にいることが信じられないけど、W杯もしっかり手にして、東京五輪へ向かってやっていきたい。あの喜びをもう1度分かち合いたいです。

 自分もサッカーを始めた時からW杯が1つの目標でした。来年は東京で五輪がある。こんな良いタイミングはないと思いますし、絶対に狙わないといけない場所。まずはW杯で試合に出て結果を残して、五輪に向けてもしっかりアピールしていきたいです。



日本は11年W杯ドイツ大会で初めて世界一に上りつめた。当時、宮川は中学2年、南は中学1年。続く12年ロンドン五輪で銀メダル、15年W杯カナダ大会で準優勝と強いなでしこを見て育った世代だ。そんな2人を含む若きなでしこたちは先輩たちに続くように、14年U-17W杯、18年U-20W杯とアンダー世代の国際大会を立て続けに制覇。日本はFIFA主催の女子国際大会3つ全てで頂点に立つ“完全制覇”を初めて成し遂げた。

宮川 08年北京五輪は小学生の時の合宿で見た記憶があります。優勝した11年も覚えているけど、一番記憶にあるのは15年W杯の決勝で米国に負けた試合。米国が本当に強いなと衝撃を受けました。

 私はW杯は11年の大会が一番覚えていて、五輪は2位だった時です。ロンドンかな? 11年に優勝してから試合をよく見るようになりました。去年のU-20W杯のメンバーでも11年の優勝がきっかけで、なでしこに入りたいと強く思った選手が多いと思います。

女子は五輪での年齢制限がないため、U-20W杯を終えた選手たちの次なる目標はA代表「なでしこジャパン」入りだ。2人は優勝した14年U-17W杯後、宮川は飛び級で出場した16年と、優勝した18年の2度のU-20W杯を経験、南は18年U-20W杯で主将を務めるなど急成長。14年U-17W杯で指揮を執り、現在は日本を率いる高倉監督もそんな2人の成長を目に留めた。南は昨夏のU-20W杯後の11月の国際親善試合ノルウェー戦でA代表初招集され、今年2月の米国遠征のブラジル戦で代表デビュー。現在通う筑波大の先輩で、ポジションも同じCBのDF熊谷とのコンビで日本の最終ラインを支える存在にまで上りつめた。



宮川も19年2月の米国遠征でA代表に初招集されると、南と同じくブラジル戦で代表デビューして勝利に貢献。そこから4試合連続出場を果たし、初招集からわずか約3カ月でW杯メンバーへと名を連ねた。アンダー世代とは迫力の違う欧米勢との対戦でもまれ、年齢制限のないW杯が難しい舞台だということも痛感している。

宮川 やっぱり、うまいだけの選手じゃ全然通用しない。頭を使うことが本当に多いと感じます。フィジカルも全然。本当に比べものにならない。A代表で遠征に行った時に、U-20W杯で見た選手が試合に出ていました。体も一回り大きくなって、すごかったです。戦術的な部分でも考えているところはすごくあるなと感じました。

 アンダー世代と違って、スピードや相手選手のレベルも全然変わりました。もう1段階、意識やプレーの質を上げていかないといけないなと感じています。U-20W杯が終わってからは、普段のトレーニングからそこを意識して取り組むようにしてきました。

W杯を経験し、来年の五輪へとつなげる。東京五輪の開催が決まったのは13年9月7日。当時はぼんやりとしていた大舞台が、すぐそこに見えるところまできた。


宮川 五輪開催が決まった時は「まだまだ先だな」と思っていました。でも、気づいたらもう来年なんですね。この期間はあっという間でした。私はU-20W杯が終わった直後は、なでしこジャパンに入っていなかったので、W杯も難しいかなと思っていました。でもこうしてW杯のメンバーに選ばれて活動が始まってからは、それに向かってやっていくしかないなと、少しずつ実感がわいてきています。なでしこは五輪で金メダルをとったことがないし、W杯より五輪のメダルをとる方が難しいと思うので、そこに自分も貢献していきたいです。

 私も東京五輪開催が決まった時は、年齢的にまだ若いから、ちょっと目指せないかなというのは正直ありました。自分がなでしこで試合に出たりするようになるとは思っていなかったので。U-20W杯後の鳥取(での親善試合ノルウェー戦)に初めて招集されて「今度はここで戦っていかなきゃいけないんだな」という実感もわきましたし、しっかりここでメンバーに残って五輪を目指したいなと初めて考えました。21歳で東京五輪を迎えますけど、全然戦えると思っていますし、女子サッカーを盛り上げるチャンスです。結果を出して、自分よりももっと若い世代の女の子たちが、なでしこジャパンに入りたいと思ってくれるようにしたい。そんな舞台で金メダルがとれたら最高ですよね。



所属するチームは違えど、16歳の頃から代表チームで切磋琢磨(せっさたくま)してきた2人。今後も、なでしこジャパンをけん引する存在として長く活躍していくはずだ。最後に、お互いの印象を聞いてみた。

宮川 萌華とはずっと代表で一緒にやっていて、学年はひとつ下だけど、U-20W杯の時はキャプテンもやっていた頼れる後輩です。プライベートでも仲がいいし、一緒にW杯のメンバーにも入れてうれしいですね。

 (宮川)麻都は普段はふわふわしていて優しくて、笑顔がかわいい先輩です。でも、グラウンドに入ると戦う姿勢とか気持ちの部分を見せてくれるので、頼れるなと思います。出会った時からずっとプレースタイルが変わらないので、刺激を受けています。

11年W杯の世界一から8年。チームは世代交代を進め、当時から顔触れは大きく変わった。それでも次から次へと新たな才能が生まれ、開花している。開幕間近のW杯、そして20年東京五輪では、生まれ変わった“新生なでしこ”で新たな歴史を築いていく。


◆1次リーグ最大の敵イングランド

1次リーグD組の日本の最大のライバルは3月の国際親善試合で0-3と完敗したイングランド。後方から丁寧につなぐスタイルだが、ダイナミックな展開でゴールに迫る戦術的な柔軟性も併せ持つ。D組を1位通過すれば準決勝まで各組1位チームとは当たらないが、2位通過の場合はカナダやオランダが入るE組の1位と8強入りを懸けて戦う。日本は昨年の親善試合でカナダに0-2、オランダには2-6で屈している。

前回大会優勝の米国や16年リオデジャネイロ五輪を制したドイツが優勝争いの中心で、開催国フランスなど欧州勢は地力がある。日本は本命ではないが、虎視眈々(たんたん)と頂点を狙う。