しびれる一発選考がやってくる。東京オリンピック(五輪)代表選考を兼ねた競泳日本選手権が4月3日、本番会場の東京アクアティクスセンターで開幕する。スイマーたちが人生をかけて競い合う8日間の見どころを、小ネタをちりばめてピックアップ。無観客開催となった大一番で、ちょっぴり寂しいリモート観戦のおともに、特集ページを広げてください。【取材・構成=益田一弘】


◆代表選考方法 競泳代表選考は単純明快だ。日本水連が定めた派遣標準記録(19年世界選手権決勝ライン)をクリアして2位に入れば代表内定。対象は決勝1本だけ。過去に選考で物議を醸した反省から04年アテネ五輪で導入。「一発勝負」の修羅場をくぐり抜ける経験が、競泳界の隆盛を支えている。

例外はない。16年リオ五輪選考では北島康介が100メートル平泳ぎ準決勝で同記録をクリアして1位通過。だが決勝は2位で同記録をクリアできず現役引退した。

なお男子個人メドレーは瀬戸が19年世界選手権2冠=2種目内定を手にしており残り1枠となっている。

リレー種目は、リレー派遣標準記録が設定されている。400メートルリレーは100メートル自由形、800メートル自由形は200メートル自由形で同記録を突破して4位になれば内定。同記録を突破できなければ、4位以内でも代表から漏れる可能性がある。

 
 
 
 

<4月3日>

 
 

▼男子400メートル個人メドレー

最初の決勝種目で、代表内定の瀬戸が出陣。2カ月半の活動停止期間は辰巳などのプールで一般客にまじって練習した。「泳ぎ方を教えて」と言われ、アドバイスした経験も。リオ五輪王者萩野が回避したことで、2枠目は20歳井狩がリード。気合の丸刈りで勝負。

 
 

▼女子400メートル個人メドレー

女子エースの大橋が、得意種目で初の五輪を決める。五輪本番で優勝候補である「鉄の女」ホッスー(ハンガリー)を打ち破る方策を探る。滋賀県彦根市出身で、勝負レースでは元祖ゆるキャラ「ひこにゃん」靴下を愛用する。海外遠征にも持参するほどの郷土愛。

大橋悠衣(2021年2月5日撮影)
大橋悠衣(2021年2月5日撮影)
 
 

<4月4日>

 
 

▼女子100メートルバタフライ

バタフライ2種目五輪を目指す長谷川がリード。父滋コーチと二人三脚で成長。まずはメドレーリレー派遣標準記録57秒92が目標になる。「涼香」の名前は、競馬好きの父がサイレンススズカから命名。池江もエントリー。予選、準決勝を通過すれば最初の決勝に。

 
 

▼男子100メートル背泳ぎ

ベテラン入江が、4度目五輪へ出陣。08年北京五輪から、31歳になった現在も最前線。東京五輪後は100メートルに専念する可能性も。英語の勉強を兼ねて見始めた海外人気ドラマ「ウーキング・デッド」は長編すぎて途中で断念した。若手の台頭を心待ちにしている。

入江陵介(2021年1月22日撮影)
入江陵介(2021年1月22日撮影)

<4月5日>

 
 

▼男子200メートル自由形

19年世界選手権銀メダル松元克央(24=セントラルスポーツ)が、景気づけの日本新をたたき出す。自身の日本記録1分45秒13を上回る1分44秒台を掲げて「手応えはある。50メートルずつ0秒10上げれば(200メートルで)0秒40上がる。順調にくれば1分44秒台出る」。

名前は「かつひろ」だが、愛称はカツオ。小学校のころからそう呼ばれる。「魚のように速く泳ぐという意味もある。本名よりも『かつお』の歴史が長いのでしっくりくる」。自身のツイッターも「katsuo」の文字を使用。19年11月には場内アナウンスで「4レーン、松元カツオ君」と愛称で呼ばれたことも。勝負レース後に「今日は何カツオ?」が恒例の質問となったが、いつも嫌な顔ひとつせずにアドリブで回答。「V3かつお」「日本新かつお」「バテかつお」「のんびりかつお」と表現も豊か。自慢のラストスパートは通称「追いがつお」だ。

大言壮語はしない、誠実な24歳。鈴木大地を育てた名伯楽・鈴木陽二コーチに導かれ、東京五輪金メダル=「頂点かつお」を狙う。欧米の壁が高い花形種目で、日本勢初メダルが期待される。日本新樹立でどんなカツオになるかも注目だ。

松元克央(2021年2月5日撮影)
松元克央(2021年2月5日撮影)
 
 

▼女子100メートル平泳ぎ

女子平泳ぎ頂上決戦。リオ後をけん引した青木か、3度目五輪を狙う渡部か。青木はたまごかけご飯で肉体改造を敢行して、体重を60キロまで増量。スタートダッシュに抜群のキレ。渡部は過去2度の五輪本場で決勝を逃し三度目の正直に燃える。ともに牛タン好き。

 
 

<4月6日>

 
 

▼男子200メートルバタフライ

瀬戸が唯一、代表内定していない種目で、今大会の勝負レース。リオ五輪銀メダルの坂井聖人もけがからの復活をかけている。2人は早大の先輩後輩。幌村尚、本多灯ら若手もあなどれない存在。日本記録1分52秒53を持つ瀬戸の出来次第で大混戦になる可能性も。

 
 

<4月7日>

 
 

▼男子200メートル平泳ぎ

自己記録2分6秒67の渡辺と同2分6秒74の佐藤が激突。150メートルまで世界記録を上回ることは確実。問題はラスト50メートル。世界記録2分6秒12のチュプコフ(ロシア)はラスト50メートルを31秒89と驚異的なスパート。画面上でぐっと迫ってくる世界記録ラインにも注目。

佐藤翔馬(2021年2月7日撮影)
佐藤翔馬(2021年2月7日撮影)
 
 

<4月8日>

 
 

▼女子100メートル自由形

池江が400メートルリレーのメンバーに入る可能性がある。リレー派遣標準記録54秒42をクリアして4位以内に入れば代表内定。大目標の24年パリ五輪は不変も可能性はある。20歳は、ジグソーパズルを作ることも最新SNS「Club house」を楽しむことも。

池江璃花子(2021年2月20日撮影)
池江璃花子(2021年2月20日撮影)
 
 

▼男子200メートル個人メドレー

萩野が、本命として見据える種目。リオ五輪金メダルの400メートルは回避して、同銀の200メートルで挑戦者として臨む。19年春の休養中は、ドイツ1人旅でモチベーションを回復した。好物はいちご。北島康介氏らは「公介」の名前から、愛称で「ハム」と呼ぶことも。

萩野公介(2021年1月23日撮影)
萩野公介(2021年1月23日撮影)
 
 

<4月9日>

 
 

▼男子100メートルバタフライ

競泳界の新勢力・新潟医療福祉大勢のエース水沼が初五輪に向かう。同大は05年に下山監督が創部。国立スポーツ科学センターをモチーフにした充実の練習環境で、選手の力を伸ばして地方大学から世界を体現する。水沼は30センチの足を生かして、水中を力強く進む。

 
 

▼女子200メートル背泳ぎ

平井コーチの指導を受ける酒井、白井が同門対決。酒井はリオ五輪に15歳で出場。「前回は何も考えてなかった。今は考えることが増えたかな」。ストレス解消法は大食い動画を見ること。フライドチキンを食べる音がお気に入り。白井はポジティブ発言が持ち味。

 
 

<4月10日>

 
 

▼女子50メートルバタフライ

池江が、50メートル種目での王座奪回を狙う。2月に出した25秒77は19年世界選手権決勝相当の好タイム。非五輪種目ながら、昨年8月に復帰した池江に、日本一返り咲きが視野に入る。50メートル自由形決勝も行われるだけに勝ち抜いていれば、1日3レースの可能性がある。

 
 

▼男子50メートル自由形

日本記録21秒67を持つ塩浦が、V候補筆頭。トレードマークのモヒカンは初めて代表入りした13年に「名前を覚えてもらうため」に始めたが「今はやめ時がわからない…」。昨年9月にタレントおのののかと結婚。新妻がだしから作る煮物で体調管理。コーヒー通。

塩浦慎理(2019年4月8日撮影)
塩浦慎理(2019年4月8日撮影)