「ねえ、この試合いつユーチューブで見られるの?」。撮影機材を片付ける私に声を掛けるサッカー少年、少女たちの笑顔は今でも脳裏に焼き付いている。

3月から4月にかけて、弊社主催のJA全農杯全国小学生選抜サッカーの各地区大会が行われ、動画撮影に出向いた。コロナ禍でチーム練習の工夫が必要な中、激戦を勝ち抜き全国決勝大会出場を決めた子どもたち。表彰式で渡されたメダルと賞状を手に「頑張るぞ、オー!」とカメラの前で拳を突き上げた。うれしそうな姿を撮影しながら、私も全国大会を楽しみにしていた。

同僚と大会当日の動きを入念に確認し、何度もテストを繰り返した。ライブ配信用の機材も準備した。元気いっぱいにピッチを駆け回る子どもたちを全国、いや世界に向けて発信するつもりでいた。だが、大会の延期が決定した。緊急事態宣言の再発令もあり、全国16チームの安全が最優先となった。熟慮を重ねた末の、苦渋の決断だった。

ユーチューブの公開日を尋ねてきた子どもたちは今、どんな思いでいるだろうか。

出場全チームに強い思いがある。対外試合の中止、不足した実戦形式の練習…。そんな逆境を乗り越えて全国の舞台へ駒を進めた。また、昨年は同大会が中止となっている。「去年の6年生が出られなかった分、全国でも頑張りたい」と仲間を思いやる子どもたちの声を思い出すたびに、目頭が熱くなる。

私は18年に開催された平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック(五輪)を取材した。そこでファインダーを通して目撃したのは、メダルを目指して戦うアスリートの生き生きとした表情だった。

東京五輪を目指すアスリートは翻弄(ほんろう)される日々を過ごしている。調整やモチベーション維持の難しさを乗り越えて、東京のスタートラインに立つアスリートはどんな表情を見せてくれるだろうか。さまざまな意見があり、問題は山積している。だが五輪担当カメラマンとして、苦難を乗り越えた先にある、自信に満ちた表情を撮りたい。

そして五輪後にも楽しみは続く。延期となった「チビリンピック」と呼ばれる小学生選抜サッカーで、子どもたちの「金メダル」を目指す姿を発信したい。きっと、オリンピックで金メダルを獲得したアスリートに負けないくらい、素晴らしい表情が見られるはずだ。【五輪担当カメラマン 河野匠】