競技の奥深さや大会の見どころをスペシャリストに聞く「教えて○○さん」第7回はボクシング。ミドル級日本代表として12年ロンドン・オリンピック(五輪)を目指した経験を持つお笑いコンビ、南海キャンディーズのしずちゃんが登場。「アマチュア」と呼ばれる競技のルールから、注目選手までを聞いた。【取材・構成=阿部健吾】

11年5月14日、アマチュアボクシングの強化合宿初日、マスボクシングでリングに立つ山崎静代
11年5月14日、アマチュアボクシングの強化合宿初日、マスボクシングでリングに立つ山崎静代

■積み重ね徹底

「プロは相手を倒すKOを狙いにいきますが、アマチュアは相手を倒しても1回の有効打にしかならないんです。殴り合いというより、パンチを当てたり、うまくかわしたりで、ポイントをいかに稼ぐか。なので、もちろん、みんな倒そうと思ってますが、より競技スポーツ的だと思います。アマはプロの下と見られがちですが、目指すものが違うかなと」

現在、日本ボクシング連盟の女子普及委員も務めるしずちゃん。まずはプロとの違いについて聞くと、ビシッと説明してくれた。

プロアマ比較
プロアマ比較

現在の採点法はアマ、プロともラウンドごとに10点方式だが、アマはダウンではなく、有効打で「10-9」「10-8」など差がつく。ダウンで自動的に「10-8」以上のポイント差がつくプロとは異なる。肉を切らせて骨を断つ、的な戦いはアマにはなじまない。

「打つことと同時に、打たれないことも重要になるんです。私も現役の時はずっと、地味なパーリングをやってました…」

少し苦い顔で振り返る。ロンドンを目指す決断をした当時、奈良県の高校などに通い、ひたすら基礎を学んだという。パーリングとは、相手のジャブやストレートを払う技術で、相手にポイントをやらないためには必須の技術。

「反復、反復で。でも、そういう練習の積み重ねを徹底してる。『アマは技術力が高い』と言われますが、中高のスポーツとして、たたき込まれるんやと」

次に違いに挙げたのが、ラウンド数。プロは世界戦なら最長12回。アマは1試合3分×3回。

「短距離と長距離だと思ってもらえれば。回数が短いので、様子見している暇はないです。いきなりトップギアですね。私はスロースターターで…」

実際に400メートルダッシュをスタミナから練習に組み込み、試合ではアップを徹底。初回が2回くらいの激しさで、体のギアを調整していたという。

「初回から高い技術のぶつかり合いが見られますよね。プロは1回はまだ探り合いが多いですが、アマは1回こそ注目ですね」

3つ目の違いとしたのは試合数。

「アマはトーナメントなので、早ければ翌日に試合なんです。減量やっと終わったと試合して、勝ってもまた減量…。これはつらかったですねえ」

ロンドン五輪の男子ミドル級で金メダルを獲得した村田諒太は、10日間で4試合を戦い抜いた。

「仲間の女子選手は、減量の連続で指先がつったりして。そんな中で戦う。精神力もすごいと思います」

■後輩活躍期待

しずちゃんが五輪に迫ったのは12年5月、中国で開催された世界選手権だった。ロンドン五輪の選考会。同大会から採用された女子種目のミドル級で、「山崎静代」は日の丸をつけてリングに上がった。その初戦の2回戦。

「死ぬ前に思い返すのは、あの試合やと思うんです」

ウズベキスタン選手に初回にダウンを奪われたが、2回の猛攻で奪い返し、3回に2度のダウンを追加して、レフェリーが試合を止めるRSCで勝った。アマでは難しい大逆転。

「無意識で、いままでやってきたことを出せた。本当に追い込んでやっていたので、報われましたね」

過呼吸になるほど、練習は過酷だった。乗り越え、つかんだ1勝だった。

「そういう瞬間が最高ですよね。今度の東京でも、代表選手にそんな場面があるといいですね。自分のために必死に頑張ったことが誰かのパワーになっていてくれたらいいなと。こんな時代だからこそ、誰かを明るくしてほしいですね」

12年の1勝は周りのパワーには…。

「あ、あの前って、山ちゃんとむっちゃ仲悪かったんですよ(笑い)。でも、ボクシングの本気度を感じてくれたんかなあ。すごく応援してくれるようになって。パワーかはわからんけど、思ってくれることはあったのかなあ。せっかく中国まで応援に来たのに、仕事忙しくて、試合前に帰りましたけどね(笑い)」

東京では女子採用3大会目で初めて日本勢が出場する。フライ級の並木月海、フェザー級の入江聖奈はいずれもメダル候補だ。

並木月海(20年2月撮影)
並木月海(20年2月撮影)
入江聖奈
入江聖奈

「並木さんはミットを持たせてもらったことあるんですが、体は小さい(153センチ)のに、めっちゃパンチ重いです。びっくりしました。入江選手は会話すると、とても真っすぐな性格で。戦い方は性格でると言いますが、得意のジャブから真っすぐに戦い抜いてほしいですね」

最後に。

「女子がボクシングというとなじみがまだないですが、みんなすごくかっこいいので、先入観なく見てほしいですね。勝てば応援してくれる人も増えるでしょうし、競技も広まるきっかけになってほしいですね」

しっかりと普及委員としての言葉。変わらぬボクシング愛で、後輩たちの活躍を願った。


◆しずちゃん 山崎静代(やまさき・しずよ)1979年(昭54)2月4日、京都・福知山市生まれ。大阪・茨木西中で陸上部(投てき)、茨木西高では女子サッカー部。02年のABCお笑い新人グランプリに出場し、審査員特別賞を獲得。03年に山里亮太と「南海キャンディーズ」結成(ボケ担当)。身長182センチ。血液型A。

南海キャンディーズ山崎静代(2019年6月29日撮影)
南海キャンディーズ山崎静代(2019年6月29日撮影)

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)