アマチュアだった拓大時代は、04年アテネ五輪出場が大きな目標でした。出場を逃し、プロ転向を決意しましたが、当時の悔しい思いがあったから、世界王者になるまで諦めないと覚悟が決められたと思います。

4年に1度の五輪は、やはり特別です。ボクシングでいえば、あのフロイド・メイウェザーも、ロイ・ジョーンズJrも銅メダルに終わっています。現在、プロは1階級に4人の世界王者がいますが、五輪は4年に1度、各階級でたった1人の金メダリストを決めます。実力はもちろん、調子も、年齢的な巡り合わせも必要。どんぴしゃのタイミングで大会を迎えられるかが重要な要素になります。優勝候補が勝つのが簡単ではないからこそ、メダルに価値があるのだと思います。

日本のボクシング界も、海外のように年齢層が下がってきています。辰吉さんに影響を受けたのが内山高志さん、山中慎介らの世代だとすると、東京五輪で戦うのはその人たちの活躍を見てきた世代の選手たちです。12年ロンドン五輪で、村田諒太と清水聡がメダルを獲得し、五輪でのボクシングも大きな注目を集めました。しかも今回は母国開催。プロ転向せずに東京五輪を目指す有望なアマチュア選手も多くいます。彼らが活躍することで、またさらに下の世代が彼らに憧れボクシングを始める。そうやって、歴史をつないでいってほしいです。

ただ、「スポーツ」というくくりでみれば、子どもたちには、結果だけではなく、頑張ることを楽しんでほしいと思います。僕自身も、試合で何度も負けてきましたし、結果はすぐに出なくてもいいのです。部活もそうですが、やり終えた時にどう感じるかが重要で、中途半端にしか頑張れなかった人は、つまらなかった、しんどかったという感情だけが残る。ただ、本当に情熱を注いだ人は、結果はどうあれ、自分を好きになれるはずです。そして、自分のことを誇りに思える人は、勝負どころで勝てる人だと僕は思っています。東京五輪が、子どもたちが、頑張る経験を学ぶきっかけになってくれればうれしいです。

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